ADHDの子が「わかっているのにできない」本当の理由。脳の「実行機能」の課題を理解する支援の第一歩

yuu

はい、こんにちは。ゆうです。

僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。

このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。

さて、本日の記事は、「ADHD(注意欠如多動症)の子どもが『わかかっているのにできない』理由と、その背景にある脳の特性」についてです。

お子さんが「どうして宿題をやらないの?」「なんで忘れ物ばかりするの?」と、わかっているはずなのにできない姿を見て、「本人のやる気がないからだ」「だらしないだけだ」と、どう対応していいか悩んでいませんか?

「わかっているのにできない」のは、脳の特性

さて、今日に関してはADHDの子供に見られる困難について解説していくんですけども、特にADHDの子供たちは「わかっているのにできない」ということが多々あります。

それっていうのは、意思とか努力とかの欠如ではなく、脳の特性によるものなんですよ、っていうテーマで今日はお話ししていきたいと思います。

よくあるパターンとして、宿題に取りかかれない、忘れ物が多い、衝動的な行動が止められない、などがあります。

これは脳機能の違いがあるから起こるわけでございまして、本人がだらしないとか、やる気がないとか、そういうわけじゃなくて、本当に脳が(ある意味)正常に作動している結果、このようなことが起こってしまうというところがあるんですよね。

ADHDは、正式名称を「注意欠如多動症(ちゅういけつじょたどうしょう)」と言います。注意の持続や行動、感情のコントロールが難しいとされる神経発達症の一つです。

生まれつきの脳の特性によるもので、「育て方」が原因ではありません。そのため、「努力でどうにかする」というよりも、本人の特性に合わせた「支援」と「周囲の理解」がとても重要になります。

もちろん、療育(トレーニング)でスキルや考え方を学ぶことも本人の生きやすさに繋がるので大切ですが、それだけで全ての困難が解決するわけではない、という理解が必要ですね。

なぜADHDはコントロールが難しいのか?

もう少し細かく見ていくと、ADHDは「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と言われている脳の前側の部分と、「報酬系(ほうしゅうけい)」、特にドーパミンの問題があることによって起こるとされています。

前頭前野と「実行機能」

前頭前野は、脳の前の方にあって、特に「実行機能」という部分を主に担っている領域になります。

実行機能っていうのは、計画とか、判断とか、抑制(我慢すること)とか、あとは「ワーキングメモリ」…聞いたことあるか分からないんですけど、短期記憶みたいなものですね。こういう部分に課題がある状態がADHDと言えるかなと感じます。

研究では、前頭前野の右側の領域の活動が、定型発達の人と比べて低いことがあると言われています。

この活動の低さが、衝動的な行動を抑える「抑制機能」の弱さと関連していると言われているんですよね。だから、普通の人よりもちょっと我慢が効きづらいというところがあるんじゃないのかなと思います。

報酬系と「やる気」の仕組み

また、報酬系とドーパミンのところにもちょっと問題がありまして。

脳の中には、何か良いことがあった時に活性化して、快感や意欲に関わる「報酬系」と呼ばれる神経回路があります。例えば、お手伝いを頑張ったらお菓子がもらえた、という経験があると、「行動」と「報酬」が結びついて、その行動が定着しやすくなります。

この報酬系では「ドーパミン」という神経伝達物質が重要な役割を果たしているんですけど、ADHDのある人は、この報酬系の働きに偏りがあることが多いんです。

ゆう先生の補足解説:報酬系(ほうしゅうけい)とドーパミン

ドーパミンは「快感」や「やる気」に関わる脳内物質です。ADHDの特性として、このドーパミンの機能に違いがあると言われています。

具体的には、「すぐに得られる報酬(即時報酬)」には強く反応するけれど、「達成までに時間がかかる大きな報酬(遅延報酬)」に対しては意欲を持続させることが難しい傾向があります。

ゲームやYouTubeなど、すぐに刺激が得られるものにはハマりやすいけれど、コツコツ努力が必要な勉強や宿題は、ドーパミンがうまく働かず、やる気が出にくい状態なんです。

だから、締め切りが迫ると急に集中できたり、遅刻しそうな時にものすごい集中力で頑張れたりするんですね。僕も小さ頃そうでした(笑)。

この切迫感によってドーパミンが放出されやすくなって、その時に初めてやる気が出る。だから、いっつも締め切りギリギリになって動き出す、なんてことが起こるわけです。

困難の正体は「実行機能」の課題

今日の本題に近くなるんですけど、ADHDの子供たちに対して「準備が遅い」「頑張りが足りない」「やる気がない」「わざと困らせている」といった誤解は、周りは結構思いがちなんですよね。

でも、結論を言うと、これらの行動の背景には「実行機能」という脳の機能の発達に偏りがあるから、できないことが多いんだよと。これを理解することが、ADHDの支援の出発点だなと感じます。

ゆう先生の補足解説:実行機能(じっこうきのう)とは?

実行機能とは、「目標達成のために、行動や思考を調整する脳の働き」のことです。いわば「脳の司令塔」のような役割ですね。

例えば、計画を立てたり、手順を守ったり、集中を維持したり、状況に応じて行動を切り替えたりする能力がこれにあたります。

実行機能がうまく働かないと、計画を立てる段階でどうしていいか分からず投げ出してしまったり、手順を分かっていても気が散ってしまったり、行動を切り替えられずダラダラしてしまったり…ということが起こり、生活全般の困り事に繋がります。

実行機能の主要な4つの困難

実行機能は、大きく4つに分けることができます。

  1. ワーキングメモリ:情報を一時的に保持し、処理する力
  2. 抑制:衝動を抑える力
  3. 計画:段取りを立てる力
  4. 柔軟性(シフト):状況に応じて切り替える力

こういった部分に課題があるから、日常生活の困難に繋がっていると言われています。

1. ワーキングメモリの課題

ワーキングメモリっていうのは、情報を一時的に頭の中に保持して、同時に処理する能力のことです。

例えば、「先生の指示を聞きながらノートを取る」とか、「計算問題で数字を覚えておく」とか、複数の手順がある作業をこなす場面で使われます。

ADHDの子は、このワーキングメモリの容量が小さい、あるいは効率よく使えない傾向があるとされています。

だから、指示をすぐ忘れてしまったり、何をすべきか混乱しちゃったり、作業の途中で目的を見失っちゃったりすることがあるんですね。

そう考えると、学校の授業はまさにワーキングメモリを使いまくっているので、授業に集中できないっていうのは、正直ADHDの子たちにとってはしょうがないことなのかなって感じてしまいます。

2. 抑制機能の課題

抑制機能っていうのは、状況にそぐわない考えや行動、衝動的な反応を抑える力です。

「授業中に立ち歩きたくなっても我慢する」とか、「相手が話している時に自分が話すのを待つ」とか、「ゲームをやめて宿題に取りかかる」といった場面で必要になります。

「やっちゃいけない」「しちゃいけない」ってわかっているんだけど、止められない。やめられない、とまらない、みたいな感じの行動が、この抑制の課題に関わってきますね。

3. 計画・段取りの難しさ

目標を達成するために必要な手順を考えたり、優先順位をつけたり、効率的に実行する能力です。

宿題を終わらせるための計画、部屋の片付けの手順、時間通りの行動など、ADHDの子供たちは「どうすればいいのか分からない」「どれだけ時間がかかるか分からない」とイメージができず、結果的に先延ばしになってしまう傾向があります。

実は、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもたちも、計画や段取りが苦手なことがあります。ただ、その「中身」がちょっと違う印象があります。

ASDの子の場合は、全体像の把握や「見通し(想像)」が立たないことへの「不安」や「恐怖心」から、計画が立てられなかったり、手順に強くこだわったりすることがあります。

一方、ADHDの子の場合は、手順をイメージすることが「面倒くさい」と感じて諦めてしまう、という感じが強いのかなと思います。どちらも結果は「計画が立てられない」ですが、背景が違うんですよね。

4. 柔軟性・切り替えの困難さ

状況の変化に合わせて、考え方や行動をスムーズに切り替える能力です。

一度始めたことをやめたり、予定の変更に対応したり、失敗した後にやり直すといった柔軟な対応が苦手で、友達とのトラブルや本人のストレスに繋がることがあります。

これもASDの子の「切り替えが難しい(こだわり)」と似ていますが、中身が違います。

ADHDの子の場合は、熱中しすぎ(過集中)でドーパミンが出すぎていて切り替えられなかったり、失敗してモチベーションが上がらず「もういいや」となってしまったりする印象が強いですね。

「わかっているのにできない」具体例

では、これらの実行機能の課題が、具体的にどんな「できない」に繋がるのかを見ていきましょう。

1. 学業面での困難(宿題)

やっぱり「宿題に取りかかれない」っていうのは、よくよく言われますね。

宿題の開始や継続が難しく、失敗体験がものすごく積み重なりやすいです。「漢字ドリル1ページに2時間かかる」とか、「宿題って聞くだけで癇癪を起こす」とか。

僕も夏休みの宿題をギリギリまでやらず、「やった」と嘘をついて提出しなかったりしました(笑)。

なぜ起こるのか?

これは、実行機能の中の「計画」や「開始」の困難があったり、「集中維持」の困難があったり、「ワーキングメモリ」の限界が来ていたり、あとは「負の経験(怒られた経験)」が積み重なって嫌になっている、というのがあります。

やらなきゃいけないとは思ってるんですよ。でも、どこから手をつけていいか分からないし、始めること自体がすごく面倒くさい。始めても、周りの物に気が取られて集中力が途切れがちになる。

こういう場合は、やっぱり集中が維持できる時間で「短期集中型」でやったり、モチベーションが上がるように「スモールステップ化」したり、ちっちゃなことでもいいから「成功体験(俺、結構できるじゃん!)」を積むことが大事なのかなって感じます。

2. 忘れ物・持ち物管理の苦手

連絡帳に宿題の内容を書いてこないとか、毎朝言っても懲りずに忘れ物をするとか、物をどこにしまったかすぐ忘れるとか。僕も鍵や財布を本当によくなくしました。

なぜ起こるのか?

これも実行機能の弱さが関係していて、学校の準備や確認といった「一連のプロセス」をこなすのが難しいんです。

シンプルに「不注意」による抜け漏れもありますし、「整理整頓」がものすごく苦手で、ランドセルや机の中がぐちゃぐちゃでどこに何があるか分からない。

高等で「〜しといてね」と言われたことは、ワーキングメモリの課題ですぐに忘れちゃうんですよね。

3. 片付け・整理整頓が難しい

「どこから手をつけていいか分からない」「途中で気が散っちゃう」というのもあります。

物を出しっぱなしにする、ゴミ箱が近くにないと捨てられない、やりっぱなしで片付けない、とかですね。

なぜ起こるのか?

これも「手順(計画)」がどうやっていいか分からないから面倒くさくなるし、「集中維持」が難しい。

また、片付けには「これは捨てるか、残すか」という「判断」も必要ですが、タスクが多いと判断自体が難しくなって、物がどんどん溜まっていく、ということもあります。

まとめ

ここまで話してきたように、ADHDの子どもたちの困難は、脳の特性、特に「前頭前野」の「実行機能」の課題が背景にあります。

  1. 「わかっているのにできない」のは、本人のやる気の問題ではなく、実行機能(脳の司令塔)がうまく働きにくいからです。
  2. 実行機能には「ワーキングメモリ」「抑制」「計画」「柔軟性」などがあり、これらの弱さが困難を引き起こします。
  3. 宿題、忘れ物、片付けが苦手なのは、まさにこれらの実行機能が複合的に関係している結果です。

僕がADHDのことで一番わかってほしいのは、「やりたいんだけど、できない」という本人の苦しさです。周りから見るとやる気がないように見えても、脳の機能的な問題で、物事をスムーズに達成することが難しい。

まずはこの「脳の特性」を理解してもらうこと。

そして、その特性を理解した上で、じゃあどうやったらうまく生活していけるのか、という具体的な工夫を重ねていくことが、お子さんの成長の鍵になるのは間違いありません。

結論:読者へのメッセージ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの**「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」**ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

ABOUT ME
ゆう|Yuu
ゆう|Yuu
子どもの発達の専門家
現役児童指導員。一般社団法人dil理事。年間300回以上、通算2000回以上の療育。児童発達の専門家。富山県内の療育施設で主に児童・幼児の療育を行っています。ニコニコ学習塾も絶賛活動中。
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