ADHDとASDの併発(併存)の特徴とは?一見真逆の特性が組み合わさる困難さと「強み」を解説

yuu

はい、こんにちは。ゆうです。

僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。

このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。

さて、本日の記事は、「ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉スペクトラム症)が併発した時の特徴」についてです。

ADHDとASDは想像以上に併発(併存)します

さて、今日に関してはADHDとASD、この二つの発達障害が併存しているパターンについて解説していきたいと思います。

正直、多くの方が思っているADHDの症状とASDの症状は、真逆に感じられる方が多い印象があります。

でも、本質的には似ている部分もあったり、逆に組み合わさることで課題が大きくなったりします。

僕自身、発達障害と診断されたことはないんですが、この業界に入って勉強する中で、自分も幼少期にこの両方の要素が強かったなと感じるんですね。

この特性が噛み合うことで嫌なこともたくさんありましたし、逆に噛み合うことでプラスになって、今こうして活動できている部分もあると思っています。

まず知っておいてほしいのは、ADHDとASDは、皆さんの想像以上に同時に起こるということです。

大規模な調査では、ASDの子どもの約30%〜50%、ADHDの子どもの65%〜80%が、相互の診断基準を満たすと報告されています。つまり、下半数くらいは基本的に併発していると言われているんですね。

大人になると約4人に1人が併存するというデータもあります。この2つの障害は独立しているというより、実は共通の基盤を持っていて、その「出方」がそれぞれ違うだけ、という見方の方が良いのかもしれません。

ゆう先生の補足解説:DSM-5と併存診断

DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)は、精神疾患の国際的な診断基準です。

実は、2013年に改訂されたこのDSM-5から、ADHDとASDの併存(両方の診断が同時につくこと)が正式に認められました。

それ以前(DSM-IV)では、この二つは同時に診断できなかったんです。

ですから、2013年以前に診断を受けた大人の方は「どちらか片方だけ」と診断されているケースも多く、近年の認知度の向上とこの基準の変更によって、「併発」の発見件数が増えている(発見件数が増えた)というのが背景にありますね。

なぜ併発するのか?共通の脳機能と原因

では、もっと根本的に、なぜ併発するのか。原因はまだ厳密には特定されていませんが、ゲノム(遺伝情報)の解析や脳画像の研究によって、ADHDとASDは共通点があることがわかってきています。

具体的には、脳内の「ドーパミン系」の働きや、「前頭葉」「小脳」といった脳の領域に、共通の遺伝的な脆弱性(影響の受けやすさ)や、神経経路の特殊性(一般とは少し異なる回路)があることが分かっています。

ゆう先生の補足解説:ドーパミン系と遺伝的脆弱性

難しい言葉が出てきましたが、要するにADHDもASDも、脳の特定の領域や、神経伝達物質(脳内ホルモン)の働き方に、共通の遺伝的な特徴(脆弱性)が見られる、ということです。

特に「ドーパミン系」は、ADHDの「やる気・報酬」だけでなく、ASDの「こだわり・常同行動」にも関与していると考えられています。

共通の土台(遺伝的素因)があって、そこに環境要因が複雑に絡み合い、症状の出方が「ADHD優位」になったり「ASD優位」になったり、あるいは「併発」したりするのではないか、と言われています。

遺伝的な素因を持っていたとしても、その後の生活環境によって症状が出てくるかどうかが変わってくる。

幼少期は良くても、大人になって仕事の環境に馴染めなくて出てくるパターンもあります。

中核症状の比較:特性が組み合わさるとどうなる?

では、ADHDとASDの中核症状が組み合わさると、具体的にどうなるのかを見ていきましょう。

① 不注意 (ADHD) + 限定的な関心 (ASD)

まず「不注意」です。ADHDの「注意散漫」と、ASDの「関心対象への没入」や「感覚過敏」が組み合わさります。

表面上はどちらも「授業に集中していない」「ぼーっとしている」ように見えるんですが、発生源が違います。

  • ADHDの不注意:全般的に注意が散漫で、課題の遂行が困難。
  • ASDの不注意(に見える状態):授業より気になること(自分の興味)に意識が没入している。または、蛍光灯がチカチカする、周りの音がうるさいといった「感覚過敏」によって集中が妨げられている。

これが組み合わさると、より一層、自分の世界に没入しやすくなります。

支援者としては、この不注意が「注意散漫(ADHD)」から来ているのか、「感覚過敏やこだわり(ASD)」から来ているのかを見極めないと、適切な支援ができません。

「集中しなさい」と声をかける(ADHD的支援)だけでは、感覚過敏(ASD)が原因の場合は解決しないんです。

② 多動性・衝動性 (ADHD) + 社会的課題 (ASD)

次に「多動性・衝動性」です。ここにASDの要素が加わると、社会的な課題がより複雑化します

例えば、ADHDの特性で衝動的に席を離れたくなったとします。定型発達の子やADHDのみの子は、その時に「あ、でも周りのみんなは座ってるな」という社会的なサイン(集団の様子)を読み取って、我慢できるかもしれません。

しかし、ASDの特性として「社会的なサインの読み取りが苦手」「自分中心に考えやすい」という面が併存していると、「周りがどうしているか」を気にせずに席を離れてしまう傾向が強くなります。

結果として、先生から怒られることが多くなったり、周りの子から「なんであの子だけ」と思われたり、周囲との摩擦が深刻化しやすいんです。

この場合、衝動性のコントロール(ADHD支援)と、「今はこういう場面だから座るんだよ」という社会的認知(ASD支援)の両面からのアプローチが必要になります。

③ 社会的コミュニケーション (ASD) + 衝動性 (ADHD)

ASDの中核症状である「社会的コミュニケーションの困難」に、ADHDの要素が加わるとどうなるか。

ASDの特性には、非言語的な合図(表情など)の理解が難しかったり、相互の会話(キャッチボール)が苦手だったりする点があります。

ここにADHDの「衝動性」や「不注意」が組み合わさると…

  • 一方的に自分の話をし続けてしまう
  • 相手の話の途中で、自分が気になった瞬間に割り込んでしまう
  • 相手の表情(嫌な顔)を読み取れないまま、衝動的に喋り続けてしまう

といったことが起こります。

相手の話を聞き漏らしたり、ミスをしたりして、対人関係での孤立を招きやすくなるため、ここも早期の支援(会話の順番を教えるなど)が大事になってきます。

④ 限定的な興味 (ASD) + 刺激の探求 (ADHD)

ASDの「限定的な興味(こだわり)」とADHDの特性が組み合わさると、どうなるでしょうか。

ASDは「同じことを維持したい」、ADHDは「新しい刺激を求めたい(多動)」なので、一見すると水と油、真逆に見えますよね。

ですが、これが併発すると、「興味の対象には何時間も没頭する(過集中)」のに、突発的に「衝動的な行動(走り出す、奇声をあげる)」が混在する、といった非常に複雑な状態になることがあります。

集中しているかと思えば、急に別なことをし始める。周りから見ていると「何をしているのかよくわからない」混沌とした状態に見えるかもしれません。

併発時の具体的な特徴と「生きづらさ」

この4つの組み合わせが、実際の生活でどんな「生きづらさ」として現れるか、さらに具体的に見ていきましょう。

衝動性 + 社会的困難(摩擦の深刻化)

先ほども触れましたが、ADHDの「思いつきで発言する」「衝動的に割り込む」特性と、ASDの「表情や暗黙のルールの読み取りが困難」な特性が合わさると、相手が嫌な顔をしていても、それを気にせず(気づかず)に衝動的な発言を続けてしまいます。

これにより誤解を生みやすく、本人の意図とは関係なく、周りから受け入れられにくくなる辛さがあります。

不注意 + 限定興味(極端なスイッチ)

ADHDの「注意散漫」とASDの「限定的な興味(こだわり)」が併発すると、スイッチの極端さが現れます。

僕も比較的にこのタイプだったと思うんですけど、

  • 興味のない課題(例:宿題)には、一瞬で意識がパツンと離れる。
  • 関心のある対象(例:ゲーム、好きな研究)には、何時間でも没頭しすぎる(過集中)。

周りから見ると「やる気スイッチ」が入ったように見えるかもしれませんが、本人の意思でコントロールしているわけではありません。

ADHDの「自分の世界に入りやすい」不注意と、ASDの「限定興味」、そして両者に見られる「過集中」が組み合わさった結果です。

声をかけても反応しづらく、生活のバランスを崩しやすい。無理に中断させると(特にASDのこだわりが強い場合)癇癪を起こしやすいため、タイマーなどで事前に知らせる環境設定が重要になります。

多動 + 感覚過敏(やりたいのに、できない葛藤)

ADHDの特性で「外で遊びたい!」「動きたい!」という多動のエネルギーがある。

しかし、ASDの特性で「太陽の日差しが眩しすぎる(視覚過敏)」「グラウンドのガヤガヤ感が耐えられない(聴覚過敏)」といった感覚過敏がある。

この2つが衝突すると、「やりたい」のに「できない(不快)」という強い葛藤が本人の中で起こります。

運動会に参加したい気持ちはあるけれど、人混みや音の感覚が嫌で参加できない、というような状況です。

その結果、安心できる場所(家の中など)でだけ、溜まったエネルギーが爆発して多動がひどくなる、というパターンも見られます。

衝動 + 過敏(感覚爆発・パニック)

これは非常にコントロールが難しいパターンです。ASDの「感覚過敏」によって不快な刺激(音、光、触覚など)が限界(感覚過負荷)に達した時、ADHDの「衝動性(カッとなる)」がガッチャンコすると、一気に「感覚爆発」を招きます

我慢のタガが外れ、急激なパニックや攻撃的な行動として現れることがあります。

ADHDの衝動性も、ASDの感覚過敏も、本人の意思でコントロールするのは非常に難しい。この2つが組み合わさると、本人も止められない状態になります。

こうなる前に、周りが「やばそうだな」という身体的サイン(そわそわしだす、顔がこわばる等)を察知して、早めにクールダウンできる場所に誘導するなどの対応が必要です。

ワーキングメモリ (ADHD) + 処理速度 (ASD)

ADHDの特性として「ワーキングメモリ(脳のメモ帳)の容量が小さい」こと、ASDの特性として「処理速度がゆっくり(細部に目が行き過ぎて本質を掴むのに時間がかかる)」ことがあります。

この2つが併発すると、

「指示を聞く」→「(ASD特性で)理解するのに時間がかかる」→「(ADHD特性で)理解している間に、最初の指示を忘れる」

ということが起こり、指示の聞き漏らしや作業の遅れが顕著になります。

この場合は、本人の頭の中だけで処理させようとせず、メモを取る、タイマーでペース調整をする、といった「外部メモリ」を使う支援が不可欠です。

支援する上での留意点

併発している場合、支援もより複雑になります。

診断上の落とし穴(症状の見極め)

例えば「上の空」になっている子がいた時、それはADHDの「注意散漫」なのでしょうか? それともASDの「感覚過敏」から逃れるために意識をシャットアウトしているのでしょうか?

表面的な行動だけを見て「ADHDの不注意だ」と判断すると、支援を見誤る可能性があります。「なぜ、その行動が起きているのか?」をよく観察し、両方の可能性を考える必要があります。

薬物療法(服薬)の注意点

ADHDの症状(衝動性など)を改善するために服薬(例:コンサータなど)をすることがあります。

しかし併発している場合、ADHDの症状には有効でも、ASDの「感覚過敏」や「不安」を悪化させてしまう場合があります。

服薬を開始した後は、情緒や睡眠、胃腸の症状などをよく観察し、もし体調不良や不安の増大が見られる場合は、必ずお医者さんと相談して微調整していく必要があります。

併発は「強み」にもなる

ここまで困難さについて多く話してきましたが、僕が最後に一番伝えたいことは、この併発は「強み」にもなる、ということです。

僕自身の経験を振り返っても、幼少期から学生時代まで、この両方の特性があることで、たくさんやらかしてきましたし、自分自身を苦しめてきました。

でも、30歳を過ぎた頃から(脳の前頭前野が発達してきた影響もあると思います)、この特性が「合体」し、うまく使える場面が出てきたと感じています。

ADHD由来の「スピード」と「想像性」

ASD由来の「深い集中力」と「知的探求能力」

この2つがガッチャンコした時、自分でも思った以上の結果が出ることがあるんです。

噛み合わないと、心の中で喧嘩して辛いかもしれません。でも、うまく組み合わせることができれば、ものすごく強くなれる可能性がある。

大事なのは、弱点を補完することばかり考えるのではなく、その「弱み」を「強み」として活用する視点を持つことです。

ADHDのスピード感と、ASDの探求力が組み合わさることで、他の人にはない専門性を発揮できる可能性が十分にあります。

「好きこそ物の上手なれ」ではないですが、本人ができること、得意なことに目を向けて、その強みを大事に育てていってほしいなと僕は思います。

まとめ

今日のポイントを振り返ります。

  1. ADHDとASDは別物ではなく、高確率で併発(併存)します。2013年の診断基準改定(DSM-5)から正式に認められました。
  2. 併発すると、ADHDの「衝動性」とASDの「社会的困難」が組み合わさって対人摩擦が深刻化したり、ADHDの「多動」とASDの「感覚過敏」が衝突して本人の葛藤が強まったりと、困難さが複雑化します。
  3. 支援では、行動の背景にどちらの特性が影響しているか(例:不注意なのか感覚過敏なのか)を見極める必要があります。困難さだけではなく、ADHDの「スピード」とASDの「集中力」が組み合わさった時の「強み」にも目を向けて、それを育てる視点が大切です。

結論:読者へのメッセージ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋gれば、僕もとても嬉しいです。

ABOUT ME
ゆう|Yuu
ゆう|Yuu
子どもの発達の専門家
現役児童指導員。一般社団法人dil理事。年間300回以上、通算2000回以上の療育。児童発達の専門家。富山県内の療育施設で主に児童・幼児の療育を行っています。ニコニコ学習塾も絶賛活動中。
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