ADHDの多動性・衝動性への家庭での対応は?支援の土台と「待つ力」「感情の理解」を育む具体的アプローチ
はい、こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「ADHDの多動性や衝動性に対する、ご家庭での具体的なアプローチ方法」についてです。
多動性・衝動性の困りごととは?
ADHDの特性については以前の動画でも解説してきましたが、これらはコントロールが難しい脳の特性なんですよね。
1回伝えたからすぐに覚えられるわけではなく、日々の環境やルーティンを整えることがすごく大事になってきます。
今日は特に「多動性」と「衝動性」について、ご家庭でどんな困りごとがあるか、そしてどうアプローチできるかをお話しします。
多動性の困りごと
ご家庭でよく聞かれるのは、食事中や宿題中になかなか落ち着かない、といった場面ですね。
- 食事中に姿勢を保てず、立ち歩いてしまう
- 宿題に集中できず、席を立って漫画などを読み始めてしまう
- 室内を走り回ったり、就寝前に興奮して寝付けなかったりする
- おしゃべりが止められず、静かにすべき場面でも話し続けてしまう
衝動性の困りごと
衝動性で多いのは、やはり兄弟ゲンカかなと思います。あとは危険行動も注意が必要ですね。
- カッとなって物を投げてしまう、扉を強くバタンと閉める
- 兄弟トラブルで手が出てしまう
- 思いついたことを考えずに行動し、道路に飛び出してしまう
- 感情のコントロールが難しく、急にカッとキレてしまう
支援の土台:8割はここで決まる
さて、今から具体的なアプローチを解説しますが、その前に「支援の土台」の話をさせてください。正直に言うと、ADHDのサポートは、これからお話しする土台の部分が8割型大事かなと思っています。
支援の3本柱
支援の土台となるのは、以下の3つです。
- 安心できる家庭環境
- 一貫性のある対応
- 肯定的な注目と褒めること
ADHDの特性自体を変えることは難しいですが、環境によってその特性が出やすくも出にくくもなります。
だからこそ、本人の良いところが出やすく、困る行動は出にくくする「環境設定」や「一貫性のある対応」が、言葉で注意するよりも何よりも大事なんですよね。
なぜ環境と一貫性が大事なのか?
それは、「脳の処理負担を下げて、成功体験を増やす」ためです。
発達障害の子どもたちは、物事を認識したり理解したりするのに使うエネルギーがものすごく多いんです。覚えるのに時間がかかるし、すぐ忘れちゃう。
でもこれ、意識的にやろうとするから難しいんだと思うんです。
例えば、皆さんが車の教習所でマニュアル車を運転した時、クラッチ、ブレーキ、ギア、周りの確認…と、ものすごく意識を使って大変だったと思います。
でも今、運転に慣れた方は、そこまで意識しなくても無意識で運転できていますよね。
ADHDの子どもたちも同じで、「無意識でできる行動」が増えさえすれば、できることはぐんぐん増えていくんです。
だからこそ、生活スキルや勉強の基礎などを、無意識レベルでできる「習慣(ルーティン)」にしてあげることが大切です。
そのために、まずは環境や一貫性のあるルールを整えて、脳が「あれこれ考えなくても動ける」状態を作ってあげるんです。
具体策①:環境調整(刺激を減らす)
脳の処理負担を下げるために、まずは視覚的・聴覚的な刺激を減らしましょう。
- 勉強スペースや遊び場は、おもちゃやポスターを減らし、視覚的刺激を抑える
- 音の反響を少なくし、できるだけ静かな部屋にする
- 整理整頓を徹底する(「物を置かない」くらいの気持ちが大事です)
特に多動や衝動がある子は、あっちに気が取られ、こっちに気が取られ…となりやすいので、気が散る要因は物理的に減らすのが一番効果的ですね。
具体策②:心の安全基地
ADHDの子どもたちは、どうしても叱られる体験が多くなりがちです。だからこそ、家庭は「心の安全基地」である必要があります。
失敗しても受け入れてもらえる。「ありのままの自分でいいんだ」と思えるような関わり方、表情がすごく大事です。
失敗しても「大丈夫、次行けるよ」と伝えてあげる安心感が、次の挑戦につながります。
ADHDの子が伸びる時って、「新しい行動に何度もチャレンジできるようになった時」だと僕は思ってるんです。
具体策③:一貫性のある対応(ルーティン)
一貫性のある対応とは、つまり「ルーティン」です。1日の流れは極力決めておいた方がいいです。
- 「何時に何をやるか」を明確に決める
- 複雑なルールは避け、シンプルで明確なルールにする
ADHDあるあるなんですが、「6時に宿題やる」と決めても、ずるずる8時になっちゃう…みたいなことがあります。
特にやり始めの頃は、親御さんも頑張って、その時間になったら始めさせる、という一貫性が大事です。
具体策④:指示は「短く、具体的に、1つずつ」
言葉の指示は、長いと忘れちゃいます。
- 一度に多くのことを伝えない
- 曖昧な指示(例:「シャツに着替えといてね」)は避ける
例えば、「まず、シャツに頭を通してね。(できたら)次は、手を出してね」というように、1個ずつ具体的に伝えます。
これを1ヶ月続けて、一連の動作が無意識にできるようになったら、「シャツ着といてね」という曖昧な言葉でもできるようになっていきます。
具体策⑤:褒める(25%ルール)
できたら、その都度褒める。これが本当に大事です。
ADHDには「25%ルール」なんて言われ方もしますが、できないことがたくさんあるので、ほんのちょっと(25%)できただけでも褒めるくらいでいいんです。
そして、褒める時は「結果」よりも「プロセス(過程)」を褒めてあげてください。
「宿題を全部終わらせて偉いね」(結果)ではなく、「今日も宿題にちゃんと取り組んでるね」(過程)と褒める。
プロセスを褒められると、その「行動」自体が定着しやすくなります。
「多動性」への具体的な支援のコツ
さて、土台が整ったら、次は具体的な特性へのアプローチです。
結論:エネルギーの発散とメリハリ
多動性への対応は、結論から言うと「エネルギーの発散」です。
僕も色々やってきましたが、特に多動エネルギーが強い子の場合、動くのを「止める」のは特策じゃありません。むしろ「動かす」方がいい。
ただし、「メリハリ」をものすごくしっかりさせます。
「この部屋で20分勉強する。それが終わったら、あっちで思い切り遊ぼう!」
この「やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶ」のメリハリをちゃんと習慣づけていくと、1年後くらいには大きく伸びている子が本当に多いんです。
具体策①:体を動かす(屋外・屋内)
ご家庭でできるエネルギー発散としては、トランポリンや、よくわからないダンス(笑)でもいいです。
屋外に出られるなら、公園でのボール遊び、自転車、散歩などがリフレッシュになる子が多いですね。
具体策②:クールダウンできる空間
エネルギーを発散させる(上げる)こととセットで大事なのが、「落ち着ける空間(下げる)」を作っておくことです。
お家のソファーでもいいですし、使ってない部屋に小さなテントを置いて「ここはゴロゴロしていい場所」と決めるのもいいですね。
こういう「気持ちのリセットポイント」を作っておくと、思い切り遊んだ後に自分でそこに戻って勝手に落ち着いている、ということが起こります。
この「上げる」「下げる」の切り替えを訓練することが、結果的に多動性のコントロールに繋がっていきます。
具体策③:クールダウンの方法(深呼吸)
クールダウンの方法として僕が一番お勧めしたいのが「深呼吸」です。
これはもう、トレーニングとして日常的に取り入れた方がいいです。

ゆう先生の補足解説:深呼吸は「脳のトレーニング」
多動傾向の子に「深呼吸して」と言っても、最初はすごく浅い呼吸しかできないことが多いんです。すぐに次が気になったり、動き出したくなったりするからですね。
ですが、これを根気強く「1分間、静かに息を吸って、静かに吐く」という練習を続けることが、すごく大事な脳のトレーニングになります。
多動的な動きは「無意識・反応的」ですが、深呼吸は「意識的」な行動です。
この意識的なコントロールを練習することで、脳の「止める」力(抑制機能)を鍛えていくイメージですね。
これがうまくできるようになってくる頃には、多動性も落ち着いてくるケースが多いですよ。
「衝動性」への具体的な支援のコツ
次に衝動性ですが、これは正直、療育でトレーニングしたからといって、すぐに現場(学校など)でうまくいくとは限らない、手強い特性です。脳の問題なので、そんじょそこらじゃ変わりません。
結論:待つ力(時間がかかることを覚悟する)
衝動性の支援で一番大事なのは、「待つ力」を養うことです。
パッと手が出てしまう、パッと行動してしまう、その「一瞬」を止める訓練ですね。
これは幼少期や小学生の間にすぐ解決できる問題だとは思わず、中高生、大人になった時に本人がこの力を使いこなせるようになることを目指して、淡々と取り組む必要があります。
具体策①:「待つ」を練習する
「待つ」を楽しく練習する方法として、遊び(ゲーム)が一番です。
- 「あと何分待ってね」とタイマーをこまめに使う
- 「だるまさんがころんだ」「ハンカチ落とし」
- トランプの「神経衰弱」やカードゲーム
こういった「ルールのある遊び」を繰り返し行うこと。これがそのまま「自分をコントロールする(待つ)」練習になります。
具体策②(最重要):気持ちを代弁しラベリングする
衝動性のある子を見ていてすごく思うのが、「自分の感情がわからない」という子が多いんです。
特にネガティブな感情がわからなくて、イライラ、焦り、不安、悲しい、といった気持ちを自覚できない。だから、そのよくわからない感情が爆発して、行動(衝動)として出てしまう。
そこで大事なのが、周りの大人がその気持ちを「代弁」してあげることです。
カッとなって物を投げてしまった子に、「今、イライラしたね」「悔しかったんだね」と、その気持ちを言葉にしてあげる。
これは「感情のラベリング(名前をつけること)」と言われる手法です。
「イライラ君が出てきたね」みたいに名前をつけてあげるのも良いです。
なぜこれが大事かというと、「気づく」ことが「止める」ことの第一歩だからです。
「あ、今自分はイライラしているんだ」と自分の気持ちに気づく(自覚する)ことは、自分を客観的に見る(=前頭前野が働いている)状態です。これが「待つ」力に繋がっていきます。
衝動的に湧き上がった「よくわからないモヤモヤ」に名前がつくことで、本人も「この気持ちが来たら、次はこうしよう」と対策を考えられるようになるんです。
具体策③:危険を予測し環境を整える
衝動的な行動を見越して、環境を整えておくことも大事です。
刃物、薬、コンセント、ベランダなど、危ないなと思うものは事前に物理的に対策しておく。これは本人の安全だけでなく、親御さんの安心にも繋がります。
具体策④:事前予告と事後フォロー
衝動的な行動が起きないように「事前に」ルールを伝えておくこと。
そして、もし起きてしまったら「事後に」ちゃんとフォローすることが大切です。
- 事前:出かける前に絵本などを使って「信号は止まろうね」とルールを伝えておく。
- 事後:お友達を押してしまった時、「押しちゃダメ!」と叱るだけでは不十分です。「貸してって言おうね」「こう言ったら貸してくれたかもしれないよ」と、「どうすれば良かったのか(代替行動)」を具体的に教えてあげてください。
衝動性は止めるのが難しいですが、一回でも「止められた」という成功体験が積めれば、それを褒めてあげることで定着していきます。
時間のかかることですが、淡々と繰り返していきましょう。
まとめ
今日のポイントを振り返ります。
- ADHDの支援は、テクニック以前に「安心できる環境」「一貫性のあるルーティン」「肯定的な注目(褒め)」という土台が8割です。これらは脳の処理負担を下げ、無意識にできることを増やすために行います。
- 多動性には、エネルギーを「発散」させ、活動と休息の「メリハリ」をつけることが有効です。特に「深呼吸」の練習は、脳のコントロール機能を鍛えるトレーニングになります。
- 衝動性には、時間がかかることを前提に「待つ力」を養います。ルールのある遊びを取り入れつつ、最も大事なのは本人が自覚しにくい感情を「イライラしたね」と「代弁(ラベリング)」してあげることです。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

