カサンドラ症候群とは?パートナーに「心が通じない」苦しみと孤独の正体【現役指導員が解説】
はい、こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「カサンドラ症候群」についてです。
僕は普段、お子さんの発達に関するお話がメインですが、今日はどちらかというと大人向けのお話になります。
「パートナー(旦那さんや奥さん)とのコミュニケーションがうまくいかない」
「なんで私の(俺の)気持ちを分かってくれないんだろう?」
「この苦しさを誰にも理解してもらえず、深い孤独を感じている…」
そんな風に、特定の相手との関係性において、心が通じない苦しさを感じていませんか?
今日は、そうした「状態」を指す「カサンドラ症候群」について、その背景や対策を詳しくお話ししていきます。
カサンドラ症候群とは?「心が通じない」苦しみの正体
改めまして、「カサンドラ症候群」とは何かというと、主にASD(自閉スペクトラム症)の特性を持つパートナーや家族との間で、情緒的な繋がりを築けないことによって生じる、深い孤独感と心身の不調を表す言葉です。
僕が活動している療育施設でも、お子さんの通所にはお母さんが来られることが多いんですが、お話を聞いていると「うちの旦那がちょっと…」というお話を伺うことが結構あります。
例えば、「子どもの療育に全然参加してくれない」「特性について話しても理解してくれない」といったことから、「自分ひとりで全部抱えちゃって、すごく辛いんです」というお悩みです。
もちろん、これは逆のパターン(旦那さんが悩むケース)もありますし、夫婦間に限らず、親子関係や職場の上司・部下との関係でも起こり得ます。
カサンドラ症候群の語源は、ギリシャ神話に出てくる王女「カサンドラ」から来ています。彼女は未来を予言する力を持っていましたが、その予言を誰にも信じてもらえませんでした。
この「自分の気持ち(真実)を誰にも分かってもらえない苦しみ」という逸話が、この状態を指す言葉として使われるようになったんですよね。
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ゆう先生の補足解説:カサンドラ症候群は「病名」ではない
ここで大事な点として、カサンドラ症候群は、現時点では医学的な「正式な病名」ではない、ということです。
どちらかというと、特定の人間関係(主にASD傾向のあるパートナー)との間で生じる強いストレスが原因で、「適応障害」や「うつ病」「慢性疲労」といった心身の不調をきたしている「状態」を指す言葉なんですよね。
特定の関係性の時だけ、あるいは特定の場所にいる時だけ(例えば「職場に行くと」など)調子が悪くなるのを「適応障害」と言ったりしますが、カサンドラ症候群も初期段階ではそれに近いかもしれません。
病名ではないからこそ診断が難しく、周囲に「気のせいじゃない?」と言われてしまい、さらに理解されにくいという苦しい側面もあります。
なぜカサンドラ症候群は起こるのか?
では、なぜこのような「心のすれ違い」や「苦しみ」が生まれてしまうのでしょうか。そこには、いくつかの背景があります。
背景①:ASD(自閉スペクトラム症)のコミュニケーション特性
カサンドラ症候群の背景には、パートナーのASD特性が関係していることが多いと言われています。
ASDの特性を持つ方は、
- 感情の共有(「嬉しいね」「悲しいね」と気持ちを分かち合うこと)
- 非言語的なサイン(表情、声色、その場の雰囲気)を読み取ること
これらが苦手な場合があります。
そのため、こちらが辛そうな顔をしていても、その「辛さ」に気づいてもらえなかったり、「ちょっとは手伝ってよ(=察して)」という曖昧な言い方をしても、文字通りにしか受け取られず、意図が伝わらなかったりします。
その結果、「相手が冷たく感じる」「自分のことを大事に思ってくれていないんじゃないか」という感覚に陥りやすく、コミュニケーションに疲れ果ててしまうんです。
背景②:お互いが理解できない「二重共感の問題」
ここで、「なんでASDの人は察してくれないんだ」と一方的に責めるのではなく、理解しておきたいのが「二重共感の問題」という考え方です。
これは、私たちが「なんで(私の気持ちを)分かってくれないの?」と思っている時、実は相手(ASD特性のある方)も「なんで(こっちのルールやロジックを)理解してくれないの?」と同じように思っている、という状態です。
お互いの脳の構造、つまり神経タイプが違うんですよね。例えるなら、「違う星に住んでいる」感覚に近いかもしれません。
お互いが使う「当たり前」の言語や感性が違うため、コミュニケーションがうまくいかない。その「すれ違い」が、お互いの距離をどんどん広げていってしまいます。

ゆう先生の補足解説:二重共感の問題(Double Empathy Problem)
これは、カサンドラ症候群を理解する上で非常に重要な概念です。
従来は「ASDの人は共感性が低い」と言われがちでしたが、そうではありませんでした。
「定型発達者(ASDでない人)同士」は共感しやすい、「ASDの人同士」も共感しやすい。
でも、「定型発達者とASDの人」の間では、前提となる感覚や常識が違うため、お互いに共感を抱くのが難しい。
つまり、どちらか一方が悪いのではなく、お互いの「当たり前」が違うことで生じる「すれ違い」なんだ、という考え方です。
背景③:周囲に理解されない最大の壁「マスキング」
これが、カサンドラ症候群で悩む方を最も孤立させる原因かもしれません。
パートナーが、家の中では無口でコミュニケーションが難しいのに、一歩外(会社や友人関係)に出ると、「マスキング」をして、すごく「仕事ができる人」「社交的でいい人」に見られているケースです。
「マスキング」とは、社会に適応するために、自分の特性を隠して周りに合わせる努力のことです。

ゆう先生の補足解説:マスキング(Masking)とは?
マスキングとは、ASDの特性を持つ人が、社会(職場や学校など)に適応するために、自分の特性を意識的・無意識的に「隠したり」「取り繕ったり」する努力のことです。
例えば、「相手の目を無理して見る」「興味がなくても相槌を打つ」「決まった雑談フレーズを覚える」といった行動ですね。
これはASD当事者にとって非常にエネルギーを使う行為であり、その反動で、唯一安心できる場所である「家庭」では、エネルギーが切れて無口になったり、素の特性が強く出たりすることがあります。
これを「外面(そとづら)が良い」と誤解されがちなんです。
このマスキングのせいで、あなたが「うちの夫(妻)が家で全然話してくれなくて…」と友人や親戚に相談しても、
「え?あの人が?あんなに仕事もできて優しい人が信じられない」と、あなたの苦しみを信じてもらえないのです。
これが、カサンドラの神話と同じ「誰にも分かってもらえない」という二重の苦しみ、深い孤立感を生んでしまいます。
どんな人がなりやすい?主な症状は?
カサンドラ症候群になりやすいのは、傾向として、優しくて、責任感が強い「いい人」が多いと言われています。
相手のことを理解してあげたい、どうにかして関係を良くしたい、と頑張れば頑張るほど、変わらない相手とのギャップに心が疲弊してしまうんです。
主な症状としては、以下のような心身の不調が現れます。
- 精神的な孤立感、孤独感
- 抑うつ気分、無気力
- 慢性的な疲労感
- 不眠、頭痛、めまい など
心が疲れてくると、だんだん体も動かなくなってきてしまいます。
どうすれば、この苦しみから抜け出せるか?(支援と対策)
もし今、こうした苦しさの真っ只中にいるとしたら、どうすればいいのでしょうか。ここからは具体的な対策についてお話しします。
対策① まずは「自分を責めない」こと
今日、僕が一番伝えたいのはこれかもしれません。
今うまくいっていないのは、「あなたのせい」ではありません。
「私の言い方が悪いのかな」「私の努力が足りないのかな」と自分を責める考え方から、まずは距離を取ってください。
これは、あなたの性格や努力の問題ではなく、「神経の働きの違い(脳のタイプの違い)」によって起きている「すれ違い」なんだと、問題を客観的に切り分けて理解することが重要です。
対策② 相手の「特性」を知ること
「知ること」は、心を軽くする第一歩になります。
なぜあの人は、あんな行動をとるのか?なぜ言葉が通じないのか?
その背景にあるASDの発達特性を理解することで、「ああ、悪気があって無視していたわけじゃなく、言葉通りにしか受け取れなかったんだな」とか
「表情に出ないけど、そう感じてたんだな」と、理由が分かって納得できることがあります。
理由がわかれば、伝え方を変えることもできます。
例えば、旦那さんに言葉で「ゴミ出しお願いね」と言っても伝わらないけど、ホワイトボードに「ゴミの日」と書いて「視覚提示」したら、すんなり動いてくれるかもしれません。
お互いが理解できるコミュニケーション方法が見つかれば、関係性は改善していきます。
対策③ 適切な「境界線」を引く勇気を持つ
これは、シンプルに「距離を取ってもいいんですよ」ということです。
自分が感情的になっている時、疲れ果てている時に、相手と良い関係を築こうとするのは無理があります。
「ちょっとヤバいな」と感じたら、物理的にも心理的にも距離を取る勇気を持ってください。それは悪いことではありません。
むしろ、ASD傾向のある方にとっては、ベッタリと近づきすぎるよりも、お互いのテリトリーを守る「適切な距離感」を保つ方が、うまくいくことも多いんです。
対策④ コミュニケーションを「工夫」する
「悲しい!」「なんで分かってくれないの!」と感情で伝えても、相手は「ふーん」となってしまうかもしれません。
感情的になるのではなく、「情報」として伝える工夫をしてみてください。
- 「あなたが〇〇という行動をすると、私は(こういう理由で)悲しい気持ちになります」と、I(アイ)メッセージで論理的に伝える。
- 「5分だけ、話を聞いてほしい」と具体的な数字を使う。
- 「話したいことは3つあります。1つ目は〜」と論点を整理してから話す。
雑談ならともかく、何か大事なことを伝える時には、こうした「情報」としての伝え方が有効です。
対策⑤ セルフケアと「孤独にならない」こと
色々な工夫をしても、心が疲れてしまうことはあります。
疲れ切ってしまう前に、セルフケアを習慣にしてください。
疲れている時こそ、夜更かししてスマホを見てしまう…ということもあるかもしれませんが、できるだけ睡眠時間を固定する、少しでもいいから運動する(散歩する)など、生活リズムを整えることが心の安定につながります。
そして何より、「孤独を一人で抱えない」でください。
今、この動画や記事を見てくださっているように、ネットでも良いので「分かってくれる人」を探してください。専門のカウンセリング機関でもいいですし、同じ悩みを持つ当事者の会でもいいです。
あなたの苦しさは、あなただけが悪いわけでは決してないんです。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- カサンドラ症候群とは、主にASDの特性を持つパートナーとの間で「情緒的な繋がり」が築けず、深い孤独や心身の不調を抱えている「状態」のことです。
- その原因は「あなたのせい」ではなく、脳のタイプの違い(二重共感の問題)や、相手が外で見せる顔(マスキング)とのギャップによる「周囲の無理解」が背景にあります。
- 対策の第一歩は「自分を責めない」こと。そして、相手の特性を「知り」、適切な「境界線」を引き、感情ではなく「情報」として伝える工夫をすることが大切です。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

