自閉スペクトラム症(ASD)の「こだわり」を徹底解説。
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんの『こだわり』」についてです。
「ウチの子は、どうしてあんな行動をするんだろう?」「どうして決まった手順じゃないとパニックになるの?」
「一見すると不思議に見える行動に、どう対応していいか分からない…」そんな風に悩んでいませんか?
ASDの特性についてお話しするとき、この「こだわり」は欠かせないテーマです。
今日は、その強い興味や決まった手順への執着の背景にある、子どもたちなりの深い意味や目的について、一緒に探っていきたいと思います。
「こだわり」とは何か? 5つの分類
まず、ASD(自閉スペクトラム症)の講義シリーズを始めるにあたって、僕が一番最初にお伝えしたいのが、この「こだわり」の話なんです。
ASDは、以前は「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」などと分かれていましたが、今はそれらがグラデーション(スペクトラム)であるという考え方から、「自閉スペクトラム症」と呼ばれています。その共通する大きな特徴の一つが「こだわり」です。
一般的に「こだわり」というと、「執着」とか「融通が利かない」といった、あまり良くない意味で使われることが多いかもしれません。
でも、ASDのお子さんたちの行動を理解するとき、それは単なるワガママではなく、子どもたちなりの深い意味や目的が隠されているんです。
この「こだわり」は、細かく見ると、だいたい5つくらいに分類できます。
① 同一性への固執(ルーチンの保持)
これが一番イメージしやすい「こだわり」かもしれませんね。手順や配置が変わることを極端に嫌がる行動です。
- 毎日、同じ道順で学校に行かないと気が済まない。
- おもちゃがいつもと同じ場所、同じ向きに置いていないと不安になる。
- 食事の盛り付け方や配置が決まっている。
- 毎朝のルーティンが少しでも変わるとパニックになる。
なぜこんなことが起こるのかというと、手順や配置を「いつもと同じ」に固定化することで、変化による不安を減らし、次に何が起こるかを「予測可能」にしているんです。自分でどうすればいいか分かりやすくすることで、安心感を得ているわけですね。
② 限定的な興味(狭く、深い集中)
これもASDのお子さんによく見られる特徴です。特定のテーマに対して、ものすごく狭く、そして深く没頭します。
男の子だと、恐竜や電車にものすごく詳しい子、多いですよね。数字や特定のキャラクターに没頭する子もいます。
そのテーマに対する知識量や集中力、モチベーションは本当にすごくて、専門家顔負けだったりします。
でも、その反面、自分が興味のないことには情熱が「0か100か」みたいになっていて、全く関心を示さないことも多い。このコントラストの激しさに、保護者の方が悩まれることもありますね。
③ 常同運動(ステミング)
同じ動きを反復的に繰り返す行動です。
- 手をヒラヒラさせる(ハンドフラッピング)
- 体を前後に揺らす(ロッキング)
- その場でぐるぐる回る(スピニング)
- 何回も小さくジャンプする
これらは「ステミング」とも呼ばれますが、本人が興奮した時や、逆に不安な時、負担がかかった時に出やすい傾向があります。

ゆう先生の補足解説:常同運動(ステミング)とは?
常同運動(じょうどううんどう)やステミング(Stimming / Self-stimulatory behavior:自己刺激行動)は、反復的な身体の動きを指します。
ASDのある人にとって、これは「セルフケア(自己調整)」に近い役割があると考えられています。
例えば、興奮しすぎた気持ち(上がりすぎた覚醒状態)を単純な運動で落ち着かせようとしたり、逆に不安や退屈な時に刺激を入れて自分を適切な覚醒状態に戻そうとしたり、強い不安から意識をそらすために行ったりします。
自分の状態を「いつも通り」のラインに戻すために、無意識的に行っている調整行動なんですね。
④ 物や言語の反復的な使用(エコラリア)
特定のものや言葉を、同じように繰り返して使うこだわりです。
- おもちゃのミニカーを(走らせて遊ぶのではなく)ひたすら一列に並べる。
- 車のタイヤの裏側など、特定の部分だけをずっと回し続ける。
- 扉を何度も開け閉めする。
- テレビのCMや相手が言った言葉を、そのまま繰り返す(エコラリア、オウム返し)。
周りから見ると「なんでそんな遊び方しかしないの?」と不思議に見えますよね。
例えば、物を一列に並べるのは、視覚的な刺激(散らかっている状態)が気になりすぎるため、それを自分で制御して「秩序だった」状態にすることで安心感を得ている、と言われています。

ゆう先生の補足解説:エコラリア(オウム返し)とは?
エコラリア(Echolalia)は、相手の言った言葉やテレビの音声などを、そのまま反復して言うことです。「オウム返し」とも呼ばれます。
これもASDの特性としてよく見られますが、単に「真似している」だけではないんです。
- 相手の言葉の意味を処理するのに時間がかかっている時(頭の中でリピートしている)。
- 「はい」や「うん」の代わりに、返事として使っている。
- 言葉は分からないけど、コミュニケーションを取ろうとしている。
- 不安な時に、聞き慣れたフレーズを繰り返して自分を落ち着かせている。
このように、エコラリアにも本人なりの機能や意味がある場合が多いんです。
⑤ 感覚に関連する行動(感覚過敏・鈍麻)
感覚の特性も「こだわり」として現れます。
僕らの感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚など)には個人差がありますが、ASDのある人はその凸凹が非常に大きい場合があります。
- 感覚過敏:他の人よりはるかに強く感覚を感じてしまうこと。(例:特定の音や光が耐えられない、服のタグが痛い、偏食が激しい)
- 感覚鈍麻:逆に、感覚を感じにくいこと。(例:痛みや暑さ寒さに気づきにくい、怪我をしても平気そうにしている)
- 感覚探求:鈍麻に関連して、より強い刺激を積極的に求めること。(例:強く抱きしめられるのを好む、回転する感覚を好む)
これらの感覚特性が、「特定の服しか着ない」「特定の物しか食べない」といった、強いこだわり行動の原因になっていることも非常に多いんです。
なぜ「こだわり」は起こるのか?
では、なぜASDのお子さんたちは、これほどまでに「こだわり」を持つのでしょうか。その原因は、脳の特性にあると考えられています。
脳のOS(システム)が違う?
まず大前提として、ASDのある人の脳は、定型発達の人(多数派)と、構造や神経回路のつながり方に違いがあると言われています。
これは「良い・悪い」ではなく、認識の仕方が根本的に違うんです。
例えるなら、パソコンのOSが「Windows」か「Mac」かくらい違います。
同じ「スマートフォン」でも、「Android」と「iPhone」では使い勝手やアプリが違いますよね。見た目は同じ「人間」でも、中身のシステムや情報のつなぎ方がユニークなんです。
定型発達の脳は、物事を「すっきり」まとめたり、詳細を省いて「なんとなく」理解するのが得意です。
一方、ASDの脳は、物事を非常に「詳細」に捉えたり、細かな情報をつなぎ合わせたりするのが得意な反面、全体をまとめるのが苦手だったりします。
この「脳のOSの違い」が、こだわりの原因を生み出していると考えられています。
原因①:中心性統合(中枢性統合)の弱さ
これは、物事を「全体」としてまとめる力の弱さを指します。
「中心性統合(Central Coherence)」とは、バラバラの情報を集めて、一つのまとまった意味のある「全体像(文脈)」として理解する脳の働きのことを言います。
この働きが弱いと、全体像よりも「細部」に目が向きやすくなります。
例えば、定型発達の人が「山」全体の話をしている時、ASDの人はその山に生えている「一本の木」の、さらにその「葉っぱの形」について詳細に注目している、といったイメージです。
細部に強く注目するため、小さな違いにすぐ気づきます。
これが「同一性への固執(いつもと違う!)」につながったり、細部を突き詰める「限定的な興味」につながったりするわけです。
「つまり、どういうこと?」と、話の文脈や全体像を把握するのは苦手なんですよね。
原因②:実行機能の弱さ(計画・整理が苦手)
ASDのお子さんは、脳の中が常に「ぐちゃぐちゃ」「情報がいっぱい」になりやすい傾向があります。
「実行機能(Executive Functions)」とは、目標を達成するために必要な、脳の「司令塔」のような機能です。
- 計画を立てる
- 情報を整理する
- 柔軟に思考を切り替える
- 衝動を抑える
実行機能が弱いと、こうした「計画・整理・切り替え」が苦手になります。
初めての場所に行ったり、新しいことを始めたりする時、僕らの脳は「何をどの順番でやろうか」と無意識に計画・整理します。
でも、実行機能が弱いと、その処理が追いつかず、「わーっ!」と頭の中がぐちゃぐちゃになってしまいます。
そうならないための「事前対策」として、あらかじめ決まった手順(ルーチン)にこだわることで、脳の処理負担(エネルギー)を節約し、安定させようとしているんです。
原因③:感覚処理特性(感覚過敏・鈍麻)
先ほど説明した感覚過敏や鈍麻も、こだわりの大きな原因です。
僕たちが「普通」と感じているこの世界が、ASDのお子さんにとっては、刺激が強すぎたり、逆に感じにくかったりするわけです。
- 感覚過敏で刺激が多すぎるから、耳をふさいだり、同じ服ばかり着たりして、刺激を回避する(こだわり行動)。
- 感覚鈍麻で刺激が足りないから、くるくる回ったり、ジャンプしたりして、刺激を探求する(こだわり行動)。
つまり、こだわり行動は、**自分にとって不快・不安定な感覚を、「ちょうど良い」状態に調整するための「自己調整行動」**なんです。
こだわりの心理的な役割:「心の安全基地」
ここまでをまとめると、こだわりの背景には「認知(中心性統合)」「実行機能」「感覚」という3つの特性があることが分かります。
これらの特性によって、ASDのお子さんたちにとって、この世界は**「予測が困難」で「情報処理が大変」で「刺激が強すぎる(または弱すぎる)」世界**に感じられやすいのです。
僕らがもし、言葉も通じない、ルールも分からない海外に一人で放り出されたら、ものすごく不安ですよね。
その時に、たった一つでも「知っているルール」や「安心できる手順」があったら、それにすがりたくなると思いませんか?
ASDのお子さんにとって、「こだわり」とは、まさにその役割を果たしているんです。
- 不安の管理(パニックの予防)予測可能で決まった手順(ルーチン)にこだわることは、パニックを予防し、情緒を安定させるための、本人なりの工夫です。
- 心の安全基地混沌とした世界の中で、「これだけは変わらない」というこだわりは、本人にとっての「心の安全基地」になっています。
- 負荷からの避難(自己調整)手をヒラヒラさせたり、くるくる回ったりすることは、頭がいっぱいいっぱいになった時の「避難行動」であり、「自己調整」なんです。
- 達成感(フロー状態)また、限定的な興味に没頭している時、お子さんは「フロー状態」に入り、強い達成感や喜び、有能感を感じています。これは不安対処だけでなく、本人の幸福感にもつながっているんです。
こだわりとの付き合い方
ASDのお子さんにとって、こだわりは、この予測困難な世界を生き抜くために身につけた、大事な「能力」であり、「自己調整術」なんです。決して、単なる「融通が利かない」ワガママではありません。
だからこそ、僕ら周りの大人がまずやるべきことは、そのこだわりを頭ごなしに否定したり、無理やりやめさせたりすることではありません。
まずは、「どうしてこの子はこの行動をするんだろう?」とその背景にある意味(不安なのか?感覚なのか?実行機能の課題か?)を理解しようとすることがスタートです。
その上で、もしそのこだわりが本人や周りの人の生活に大きな困難を引き起こしているなら、同じ目的(不安を減らす、安心する)を果たせる、別の「より良い方法(適応的な方法)」を一緒に探してあげるのが、僕たち支援者の役割だと考えています。
こだわりを「悪いもの」として消すのではなく、その子の「強み」として活かせるように、あるいは、生活に支障のない形に「変換」していけるように、環境を整えたり、配慮したりしていくことが大切なんですよね。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- ASDの「こだわり」は、単なるワガママではなく、本人が世界を生き抜くための「自己調整能力」であり、「心の安全基地」です。
- こだわりは、①同一性の固執、②限定的な興味、③常同運動、④物や言語の反復、⑤感覚関連の5つに分類されます。
- その原因は、ASDの脳特性である①中心性統合の弱さ(細部への注目)、②実行機能の弱さ(計画・整理の苦手さ)、③感覚処理特性(過敏・鈍麻)が複雑に影響し合っています。
- 僕たち大人の役割は、そのこだわりを無理に消すことではなく、その行動の裏にある「意味」を理解し、本人が安心できる環境を整えたり、必要であればより良い代替行動を一緒に探したりすることです。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
「こだわり」って、実はASDのある人だけじゃなく、僕ら定型発達の人にもありますよね。ご自身の「こだわり」がどこから来ているのかを考えてみると、お子さんの行動を理解するヒントになるかもしれません。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋గれば、僕もとても嬉しいです。

