書字表出障害(ディスグラフィア)とは?「書くのが苦手」は努力不足じゃない!原因と家庭でできる支援法
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「書字障害(ディスグラフィア)」についてです。
お子さんが文字を書くのを極端に嫌がったり、誤字脱字や鏡文字が多かったりして、「なんでこんなに書けないんだろう?」「練習不足なのかな?」と悩んでいませんか?
その「書きにくさ」は、本人のやる気や努力不足ではなく、脳機能の偏りによる特性かもしれません。
書字障害(ディスグラフィア)とは?「努力不足」ではありません
さて、今日お話しする「書字障害(ディスグラフィア)」ですが、正式名称としては「書字表出障害」と呼ばれることもあります。この記事では「書字障害」という言葉で進めていきますね。
これは、簡単に言うと「書くこと」がちょっと苦手な発達特性のことです。
まず大前提として、知的発達に遅れがないにもかかわらず、文字を書いたり、文章を構成したりすることに持続的な困難を示す状態を指します。
例えば、
- 誤字や脱字がすごく多い
- 文字が鏡文字になってしまう(例:「さ」と「ち」が反転する)
- 作文を書くときに文章構成がうまくできない
- 文字を書くスピードが極端に遅い
こういった特徴が見られます。
これらは、本人の「努力不足」ではなくて、脳機能の偏りによる神経発達症の一つなんです。つまり、努力をすれば解決する問題というよりは、脳の機能的な問題なので、努力だけでは解決できないこともある、ということをまず覚えておいてほしいなと思います。
学習障害(SLD)の中での位置づけ
この書字障害は、もっと大きな枠で見ると「学習障害」、今だと正式名称が「限局性学習症(SLD)」と言われるものの中に含まれます。
学習障害は、大きく3つに分けられるんですよね。
- 読字障害(ディスレクシア):読むのが苦手
- 書字障害(ディスグラフィア):書くのが苦手
- 算数障害(ディスカリキュリア):計算や数の概念が苦手
今日お話ししているのは、この2つ目の「書くこと」が苦手な部分に当てはまります。
診断としては、「定時(ていじ)」、文法、構成のいずれかに著しい困難が持続する場合に診断されます。

ゆう先生の補足解説:定時(ていじ)とは?
「定時」というのは、今僕が喋っているような「言葉(音)」と、「文字(形)」を対応させるルールのことです。英語で言う「スペル」に近い感覚ですね。
例えば、「あ」という音を聞いて、「あ」という文字の形を思い出す力のことです。
この「音と文字を結びつける」処理がうまくいかないと、聞いた言葉を正しく文字に変換することが難しくなり、書き間違い(誤字)につながりやすくなります。
特に、この書字障害(ディスグラフィア)と、読字障害(ディスレクシア)は、共通の「音処理」という部分を基盤にしているので、「読めないし、書けない」というように、両方の困難を併発するケースも結構多く見られます。
日本語の「複雑さ」が困難さに拍車をかけることも
僕ら日本人は当たり前に使っていますが、実は「ひらがな」「カタカナ」「漢字」、さらに「英語(アルファベット)」まで使いこなしていて、これって結構すごいことなんですよね。
日本語の習得難易度は、外国人からするとかなり高いらしいんです。
この複雑さが、学習障害の子にとっては「どれをどう使えばいいの?」と困ってしまう原因になります。特にディスグラフィアの場合、漢字は画数が多くて形も複雑ですよね。記憶する量も膨大です。
だから、書字障害の子どもたちにとって、漢字を覚えるのは本当に大変で、結果として漢字嫌いになっちゃう子が多いな、という印象はあります。
書字障害(ディスグラフィア)の3つの主な原因
では、なぜ書くのが苦手なのか。その原因について、今分かっていることを3つにまとめてみました。ただ、これはまだ完璧に解明されているわけではない、ということは知っておいてください。
原因①:視覚情報処理の偏り(見た形を捉えにくい)
一つ目は、文字の形を正確に捉えられないという、脳の特性があるんじゃないかと言われています。
文字が歪んで見えたり、大きさのバランスがうまく認識できなかったりする感覚です。僕らが度の合っていないメガネをかけた時に、文字が変に見える感覚に近いのかもしれません。
文字の形を視覚的に認識して、その形を記憶して、書き出す、というプロセスに弱さがあるんですね。だから、パッと見た印象で書いたら鏡文字になってしまったり、漢字の「ハネ」や「トメ」といったパーツが正しく書けなかったり、バランスの悪い文字になったりします。
原因②:音処理の困難(音と文字が結びつかない)
二つ目は、先ほども少し触れた「音」と「文字」の対応付けが難しいという点です。
例えば「あ」という文字を書こうとしたら、「あ」という音に対応する文字の形を思い出して書く必要がありますよね。
これが日本語だとさらに複雑で、例えば「きく」という言葉があった時、音楽を「聴く」なのか、薬が「効く」なのか、花の「菊」なのか。
同じ「きく」という音でも、文脈によって対応する漢字を思い出さなければいけません。
この処理に弱さがあると、うまく文字を思い出せなくて、誤字・脱字につながったり、「てにをは」などの助詞がごちゃごちゃになったりします。
原因③:運動協調性の問題(指先が不器用)
三つ目は、指先の不器用さが関係している可能性です。
DCD(Developmental Coordination Disorder)発達性協調運動症は、年齢に見合った運動スキルの習得や実行が著しく困難な状態を指します。
いわゆる「不器用さ」が目立ち、日常生活(箸を使う、服を着る、ボールを投げるなど)や学習面(文字を書く、ハサミを使うなど)に影響が出ます。
ディスグラフィアの原因の一つとして、このDCDが関連していて、物理的に文字を書くための指先のコントロールが難しいという場合があるんです。
この場合、筆圧が強すぎたり、逆に弱すぎたりと極端になりがちです。
物理的に書くこと自体がすごく大変なので、すぐに疲れてしまったり、書くのが嫌になったりする、というわけですね。
【年代別】書字障害(ディスグラフィア)の特徴的なサイン
こうした原因によって、年代ごとに特徴的なサインが現れます。
幼児期~小低学年の特徴(鏡文字・書くのを嫌がる)
この時期は、文字の形や線を覚えるのにすごく時間がかかります。
特に目立つのが「鏡文字」ですね。練習したてだと多くの子に見られますが、それがなかなか治らない場合は一つのサインかもしれません。
他にも、
- マス目から字が豪快にはみ出してしまう
- 黒板の文字を書き写すのが極端に遅い
- シンプルに「書くこと」自体を嫌がる
といった特徴があります。ただ、この時期は学習障害なのか、知的障害(軽度知的障害)なのか、判断が難しい時期でもあります。
小高学年~中学生の特徴(書くことにエネルギーを使い果たす)
この年代になると、授業で書く量も一気に増えます。
特徴的なのは、内容を考えることよりも、「書く」という作業そのものにエネルギーを使い果たしてしまうことです。
- 作文やノートまとめなどの課題が終わらない
- 言葉で聞けば答えられるのに、「じゃあ、それを書いてみて」と言われると最初の文字すら出てこない
- 漢字をなんとなくの印象(ニュアンス)で書いてしまい、間違える
- 学年相応の量の文章や、質の高い文章が書けない
高校生~成人期の特徴(ツールが鍵)
大人になっても、特性がなくなるわけではありません。
デスクワークなどで、レポートや会議のメモ、メール作成など、何をするにしても「書く」作業に時間がかかってしまう傾向があります。
ただ、昨今は手書きよりもパソコンで入力することの方が多くなっていますよね。タイピングの方が比較的得意、という人もいます。
特に僕が最近めちゃめちゃ取り入れているのが「音声入力」です。もう、これがあるとないとでスピードが圧倒的に違います。
喋れるだけ喋って、その文章を後からAIに「この文章を正しい言葉に直してね」ってお願いすれば、一瞬で綺麗な文章が出来上がります。
こうなると、喋ることさえできれば、書くことの困難さはかなりカバーできるんですよね。
家庭や学校でできるサポートとトレーニング
では、最後に具体的なサポート方法についてお話ししていきます。
学校での支援(合理的配慮)
まず、学校でできる支援として、お父さんお母さんからぜひ学校に「合理的配慮」をお願いしてみてほしいなと思います。

ゆう先生の補足解説:合理的配慮とは?
「合理的配慮」とは、障害のある人がない人と同じように学んだり働いたりできるよう、個々の特性や困難さに合わせて行われる調整のことです。
書字障害の場合、例えば「板書をノートに写す代わりに、タブレットで撮影することを許可してもらう」「テストの時間を少し延長してもらう」「パソコンでの解答を許可してもらう」などがこれにあたります。
本人の「書く」負担を減らし、持てる力を発揮できるようにするために不可欠な支援です。
ただ、順番としては、まずお家でタブレットなどを使ってみて、「これならできそうだ」という実績を持ってから学校に相談するのが良いかなと思います。
とはいえ、僕の肌感覚ですが、富山県のような地方都市だと、「他の子も使いたがるから」といった理由で、なかなかタブレットの持ち込みが許可されないケースも正直多いです…。
その場合は、「事前にプリントで用意してもらえませんか?」など、できる範囲での工夫をお願いしていくのが現実的かもしれません。
ICT機器(タブレット・PC)の活用
もしタブレットやPCを使える環境なら、その活用方法をしっかり覚えていくことが大事です。
先ほどお話しした「音声入力」や「タイピング」のスキルを身につけることで、学習を自分自身で進められる(自走できる)状況を作っていく。
文字を書かなくても覚えられる方法、問題を解けるツールを探していくことが重要です。
家庭でできるトレーニング(遊びの中で)
ICT機器が使えない場合や、基礎的な力を育てたい場合に、ご家庭でできるトレーニングもあります。
- なぞり書きこれはすごく大事です。学習障害の子でも、繰り返せば絶対に上手になります。大事なのは、毎日3分でもいいから「同じプリント」を繰り返すこと。新しいプリントを次々やるより、一つのものを完璧に書けるようにしてから次に進む方が、定着しやすいです。
- 微細運動(手先を使う遊び)「紐通し」「迷路」「粘土遊び」など、何でもいいので指先を器用に使う訓練(遊び)を取り入れましょう。これが原因③の運動協調性の部分を育てることにつながります。
- 視覚的なトレーニング「間違い探し」や「パズル」など、目で見て情報を捉え、追いかける訓練も効果的です。
- 音と文字を結びつける遊び「しりとり」「カルタ」「絵本の読み聞かせ」などを通して、「この音の時はこの文字なんだよ」と、言葉と音の単位を意識させ、一致させる体験を積んでいくことも、書字障害のサポートになります。
まとめ:書く以外の方法を使い倒そう
結論を言うと、書くのは苦手だとしても、書く以外の方法で表現することが、昔と比べてだいぶ楽な時代になりました。
もうそれを使い倒して、どうにか自分の「できること」を増やしていってほしいな、というのが僕の思いです。
今日の記事をまとめます。
- 書字障害(ディスグラフィア)は、知的発達に遅れがないものの、「書くこと」に持続的な困難がある脳機能の偏りによる特性です。努力不足ではありません。
- その原因は一つではなく、「文字の形を正確に捉える視覚処理の偏り」「音と文字を結びつける音処理の困難」「指先の不器用さ(運動協調性の問題)」などが複雑に関係していると考えられています。
- 支援としては、「合理的配慮」を求め、タブレットの活用や音声入力、AIなどを駆使して「書く」負担を徹底的に減らすこと。並行して、なぞり書きや手先を使う遊びなどで、必要なスキルを遊びながら育てていくことが大切です。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

