女の子のADHDが見過ごされやすい理由とは?「不注意」と症状を隠す「カモフラージュ」行動を解説

yuu

はい、こんにちは。ゆうです。

僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。

このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。

さて、本日の記事は、「女の子のADHD(注意欠如・多動症)がなぜ見過ごされやすいのか」についてです。

なぜ女の子のADHDは見過ごされやすいのか?

さて、今日に関しては、実は女の子のADHD(ただ、これは発達障害全般に言えることかもしれませんが)が、男の子に比べて発見されにくいんだよ、というテーマでお話ししていきます。

これ、自分も施設で仕事をしているからよく分かるんですけれども、やっぱり例年、施設に来られるお子さんの比率を見ると、

男の子と女の子だったら、どの年も男の子の方が多く診断されて来られることが多いなと感じております。

ある研究によると、ADHDは男の子が女の子よりも約3対1の割合で多く診断されると報告されています。

ただ、また別の研究では、成人期になると実は男女比ってほぼ同等になる、とも言われているんですよね。

ということは、幼少期において、女の子は診断されにくい傾向がある、ということなんです。じゃあ、なぜ女の子は診断されにくいのか、今日はそこを深掘りしていきます。

ADHDの基本症状(おさらい)

まずADHDというのは、基本的に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの主な症状がある発達障害です。

これらが年齢相応の発達水準よりも強く現れて、日常生活に支障をきたす場合に診断されるわけですね。誰しも多少の不注意や衝動性はありますが、それが「生活に支障をきたすレベル」かどうかがポイントです。

男の子の「外在化症状」と女の子の「内在化症状」

ADHDの症状の現れ方には、男女で特徴的な差があることが分かっています。

男の子に多い「外在化症状」

男の子の場合は、「外在化症状」が出やすいと言われています。

例えば、席にじっと座っていられない、走り回る、過度におしゃべりをする、順番を待てない、といった「多動性」や「衝動性」ですね。

これらの行動は外から見て非常に目立ちやすいため、「問題行動」として認識されやすく、結果として診断や支援に繋がりやすい、というのがあるんです。

ゆう先生の補足解説:外在化症状(がいざいかしょうじょう)と内在化症状(ないざいかしょうじょう)

外在化症状(Externalizing Symptoms): これは、行動が「外側」にはっきりと現れる症状です。多動性(走り回る、じっとできない)や衝動性(叩いてしまう、順番を待てない)がこれにあたります。周りの人(親や先生)が「問題行動」として認識しやすいため、男の子のADHDが発見されやすいのはこのためです。

内在化症状(Internalizing Symptoms): これは、行動が「内側」に向かう症状で、外からは見えにくいのが特徴です。不注意(ぼーっとする、考え事をする、集中が続かない)や、不安、抑うつ(落ち込み)などがこれにあたります。女の子のADHDはこちらが多いため、「おとなしい子だね」「ちょっと変わった個性だね」と見なされ、支援が必要な状態だと気づかれにくいんです。

女の子に多い「内在化症状」

一方で、女の子の症状は「内在化症状」が多いんです。

女の子のADHDは「不注意優勢型」と言われるタイプが多くて、授業中にぼんやりしていたり、空想にふけっていたり、忘れ物が多かったり、整理整頓が苦手、といった症状が現れやすいんですね。

男の子の「外在化症状」と違って、女の子の「内在化症状」は、周りの人に迷惑をかけることが少ない場合もあります。そうすると、その子の「個性」や「性格特性」として見なされてしまうんです。

「あの子はちょっとぼんやりしてる子だな」

「空想好きな、ちょっと変わった子だな」

というふうにラベルを貼られて、本当は発達特性として支援が必要なのに、見過ごされてしまう。

具体的には、以下のような行動が見られます。

  • 授業中に空想やぼんやりしてしまう
  • 忘れ物が多い
  • 指示に従うのが難しい(聞こえていないように見える)
  • 細部に注意を払わない(ケアレスミスが多い)
  • 宿題など、集中力が必要な作業を避ける
  • 整理整頓が極端に苦手

これって、多かれ少なかれ、誰にでも当てはまる部分がありますよね。でもADHDの場合は、これが「頑張ってもできない」レベルで起こっているんです。

それなのに、特に親御さんがしっかりサポートしてくれるご家庭だと、「うちの子がちょっとだらしないだけかな」「性格の問題かな」と解釈されて、ADHDの症状として認識されにくい傾向があります。

症状を隠す「カモフラージュ(マスキング)」という努力

女の子のADHDが見過ごされるもう一つの大きな理由が、この「カモフラージュ」または「マスキング」と呼ばれる行動です。これは僕も療育施設で働くようになってから知った、非常に重要な視点です。

ゆう先生の補足解説:カモフラージュ(マスキング)とは?

「カモフラージュ」や「マスキング」とは、発達特性を持つ人が、周りの環境(社会や学校)に適応するために、無意識的または意識的に自分の特性を隠したり、周りの人たちの行動を真似したりすることです。

女の子の場合、「静かにしていないといけない」「お友達と仲良くしなきゃ」という社会的なプレッシャーを男の子より敏感に感じ取り、この行動をとりやすいと言われています。

本当は集中できていなくても集中している「フリ」をしたり、会話についていけなくても「わかるフリ」をして相槌を打ったりします。

過剰な努力と完璧主義

このマスキング行動は、本人の無意識の「過剰な努力」につながることがあります。

例えば、不注意や注意困難という特性を補うために、無意識のうちに「完璧主義」に陥ったりするんです。

良い成績を維持するために、他の生徒よりもはるかに多くの時間や労力を勉強や宿題に費やしている、ということがあります。

周りから見れば「すごく頑張ってるな」「真面目だな」と見えるかもしれませんが、本人は周りについていくために、見えないところで図り知れない努力と焦り、圧迫感を抱えている可能性があるんです。

学校では「良い子」、家では「別人」?

特に女の子の場合、仲間意識が強かったり、集団から弾かれることへの恐怖感が強かったりする傾向があるかもしれません。

その「輪」の中にいるため、「普通」に見られるために、学校や幼稚園・保育園といった社交的な場では、必死に他人の行動を模倣して適応しようとします。

その結果、どうなるか。

外でエネルギーを全部使い果たして、家に帰ると「抜け殻」みたいになってしまう。

学校ではすごく頑張る「良い子」なのに、家に帰った途端に癇癪を起こしたり、動けなくなったりする。これは、本人が外で必死にカモフラージュしているサインかもしれないんですよね。

発見を遅らせる「診断基準」と「ジェンダーバイアス」

女の子のADHDが見過ごされやすい背景には、社会的な問題も関係しています。

ジェンダーバイアス(性別による偏見)

まず、「ジェンダーバイアス」です。「男の子は活発なもの」「女の子はおとなしくあるべき」といった、社会的な固定観念が私たちの中にもありますよね。

この「女の子らしさ」の期待が、女の子の内在化症状を「個性」や「女の子らしい」と誤って解釈させ、発見を遅らせる一因になっているんです。

診断基準そのものの偏り

さらに、ADHDの診断基準(DSM-5など)が作られる過程も影響しています。

この診断基準を確立するための研究開発において、実は参加した女の子は全体の21%しかいなかった、という報告があります。つまり、8割近くは男の子の症状(=外在化症状)を元に、診断基準が作られている可能性があるんです。

ゆう先生の補足解説:DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)

DSM-5は、精神疾患の国際的な診断基準の一つです。

この基準自体が、歴史的に「外在化症状(男の子に多い)」を中心に研究されてきた背景があり、女の子の「内在化症状」が診断基準に十分反映されてこなかった可能性が指摘されています。

これに加えて、診断するお医者さん側にも「ADHDは男の子の病気だ」という固定観念がもしあれば、女の子の内在化症状を見ても「これはADHDではないのでは?」と判断されてしまい、診断に至らないケースも起こり得ます。

発見が遅れることのリスク:「二次障害」

このように女の子のADHDが見過ごされ続けると、どうなってしまうのでしょうか。これが一番の課題だと僕は思っています。

燃え尽き症候群と二次障害のリスク

診断されないまま、「カモフラージュ」を続けて過剰な努力を強いられ、周りから理解されないストレスに長期間さらされると、精神的な健康問題のリスクが高まります。

ゆう先生の補足解説:二次障害(にじしょうがい)

二次障害とは、ADHDやASDなどの一次障害(生まれつきの発達特性)が原因で、周りから理解されなかったり、叱られ続けたり、過剰な努力を強いられたりした結果、後天的に発症する精神的な健康問題を指します。

具体的には、不安症、うつ病、適応障害、自己肯定感の極端な低下、自傷行為、摂食障害などがあります。

女の子のADHDは発見が遅れ、長期間「カモフラージュ」を続けるため、この二次障害のリスクが非常に高いと言われています。

幼少期はまだ「個性」で済まされていたものが、小学校高学年、中学校、高校と進むにつれて、求められるレベルが上がり、隠しきれなくなってきます。

学業や友人関係でうまくいかないことが増え、本人の自己肯定感は下がり、慢性的なストレスから「燃えつき」てしまうんです。

ちっちゃい頃に適切な支援を受けていれば解決できたかもしれないことが、発見が遅れたために、大人になるにつれて深刻な問題(反社会的な行動や薬物の問題など)に発展する可能性もゼロではありません。

だからこそ、早期発見と適切な支援が本当に大切なんです。

どうすれば気づけるか?

では、どうすれば見過ごされやすい女の子のADHDに気づけるのでしょうか。

これはもう、そのお子さんのことをよく観察して、よくお話を聞く、これしかないかなと思います。

「おとなしい」という表面的な姿だけでなく、「忘れ物が多くないか?」「友達関係で無理をしていないか?」「家で極端に疲れていないか?」といった、小さなサインにアンテナを広げることが大事です。

そして、「あれ?」っと思うことがあったら、どんなに小さなことでも、病院や支援センター、僕らのような施設に相談してみてほしいなと思います。

まとめ

今日のポイントを振り返ります。

  1. 女の子のADHDは、「不注意」や「ぼんやり」といった「内在化症状」が中心のため、男の子の「多動」といった「外在化症状」と比べて、「個性」や「性格」として見過ごされやすいです。
  2. 女の子は社会的な期待に応えようと、症状を隠す「カモフラージュ(マスキング)」行動をとりがちです。これは過剰な努力を伴うため、本人は見えないストレスを抱え、家で疲れ果てている場合があります。
  3. 診断基準が男の子の症状に基づいて作られてきた歴史や、「女の子はおとなしいもの」というジェンダーバイアスも発見を遅らせる要因となっています。発見が遅れると、不安症やうつ病などの「二次障害」のリスクが高まるため、早期の気づきと支援が非常に重要です。

結論:読者へのメッセージ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

ABOUT ME
ゆう|Yuu
ゆう|Yuu
子どもの発達の専門家
現役児童指導員。一般社団法人dil理事。年間300回以上、通算2000回以上の療育。児童発達の専門家。富山県内の療育施設で主に児童・幼児の療育を行っています。ニコニコ学習塾も絶賛活動中。
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