ASDの子どものために家でできること5選|現役指導員が教える「安心」を育むサポート術
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「ご家庭でできるASD(自閉スペクトラム症)のお子さんのための5つのサポート」についてです。
「療育施設に通い始めたけど、家では何をしてあげたらいいんだろう?」
「子どもとのコミュニケーションがうまくいかなくて、どう接したらいいか分からない…」
「支援しなきゃ、と思うけど、完璧にできなくて焦ってしまう…」
そんな風に悩んでいませんか?今日の記事は、これまで僕がお話ししてきたASDの基礎講義の「まとめ」として、ご家庭という一番身近な場所でできる支援の工夫を、小さなことから5つに厳選してお届けします。
家庭でできるASDサポート5選
今日お話しするのは、ASDの基礎講義の総集編として、ご家庭でできること、そして小さな工夫でできることに絞り込んだ内容です。
すでに実践されている方は、確認のつもりで見てみてくださいね。
サポート① 視覚支援で「見える安心」を作る
まず一番大事なのが、これです。ASDのお子さんは「視覚優位」だと言われることが多いんですよね。
これは、目から入ってくる情報(見たもの)を理解するのは得意だけれど、耳から入る情報(聞いたこと)を処理するのは少し苦手、という特性の傾向を指します。
僕らは普段、目や耳など五感から入る情報を全部活用して(統合して)、必要な情報を取り出しています。
でもASDのお子さんの場合、言葉だけの説明(耳からの情報)だと、情報が残りにくく、理解しづらいことがあるんです。
だからこそ、絵や写真、カードといった「目に見える」形で情報を残してあげる工夫が、本人の理解を助け、不安を減らすことにつながります。
これって、僕ら大人でも「大事なことは付箋に書く」とか「スマホでブックマークする」とか、普通にやっていますよね。
脳みその中ですべてを覚えておくのは大変なので、外に情報を残してあげる。その感覚です。
具体的なツール例
視覚的スケジュールカレンダーでも良いんですが、「今日は何をするのか」「どこまで終わったのか」「次は何か」が一目でわかると、脳の処理負担が減り、不安感がぐっと減ります。
活動の手順書「手洗い」「歯磨き」「着替え」など、やるべきことの順番をイラストや写真で貼っておきます。忘れた時にそれを見れば思い出せる、という「記憶を引き出す訓練」にもなりますし、安心感にもつながります。
感情カード「嬉しい」「悲しい」「怒ってる」といった感情のイラストや写真カードです。「今、お母さんはこんな気持ちなんだよ」と見せたり、「今、〇〇くんはこんな気持ちなのかな?」とすり合わせたりするのに使えます。
タイマー「あと何分」という時間の見通しを視覚化するのにとても有効です。
ちなみに、コメント欄で「タイマーを子どもが勝手に変えちゃう時はどうすれば?」というご質問をいただいたことがあります。
僕も現場でよく経験しますが、その時は「これは今、大事な時間を測ってるから触らないよ」とはっきり伝えます。
遊ぶ時はタイマーで遊んでもいいけれど、「やるときはやる」というメリハリをしっかりつけることが、時間感覚の訓練にもなるんです。
サポート② 見通しを持たせて「不安」を減らす
視覚支援とも繋がりますが、ASDのお子さんにとって「次に何が起こるか分からない」ことは、非常に強い不安の原因になります。
だからこそ「見通し」を持たせてあげることが大事です。
具体的な工夫
1日のルーティーンを作る起きる時間、食事の時間、寝る時間など、生活の大きな枠組みをできるだけ一定にします。
もちろん、放課後デイサービスなどで帰宅時間が日によって違うこともあると思います。
100%完璧なルーティーンは難しいので、「8割できればOK」くらいの気持ちで、まずは「寝る時間」「起きる時間」など、ずらさなくても良い大枠から決めてみてください。
予定変更は「早く」「具体的に」伝える楽しみにしていた予定が雨で中止になったりすると、パニックになりやすいですよね。
そういう時は、できるだけ早く伝えることが大事です。
天気予報を一緒に見ながら「明日は雨だから、公園は難しいかもね。その代わり、お家で〇〇しようか」と、代替案もセットで伝えてあげられるとベストです。
「終わり」のタイミングを明確にする遊びの切り替えが苦手な子も多いです。
「あと何分でおしまいだよ」「タイマーが鳴ったらおしまいね」とはっきり具体的に伝えます。
さらに「あと10分」「あと3分」「はい、おしまい」とカウントダウンするのも有効です。
初めてのことは「予行練習」をする新しい場所や活動は不安が強いものです。
「今度行く場所はこんなところだよ」と写真やパンフレット、Webサイトを一緒に見てイメージできるようにしておくだけで、本人の不安はかなり軽減されます。

ゆう先生の補足解説:ソーシャルストーリーとは?
初めての体験(例:運動会、遠足、歯医者さん)の前に、その場面で「何が起こるか」「周りの人はどうするか」「自分はどう行動すればよいか」を、本人目線の簡単な物語にして読み聞かせる支援方法です。
「旅のしおり」のようなものですね。事前に心の準備ができるため、見通しが立ち、不安を大きく減らすことができます。
サポート③ 上手に褒めて「成功体験」を増やす
ASDのお子さんたちは、定型発達のお子さんに比べて、日常の中で「怒られる経験」や「失敗する経験」のほうが多くなりがちです。
定型の子は失敗からフワッと学べるところを、ASDの子は「なぜダメだったのか」を具体的に教わらないと、同じ失敗を繰り返してしまうことがあります。
だからこそ、ご家庭では「できた!」という成功体験を意識的に増やしてあげることが、何よりも本人の自信につながります。
褒め方のコツ
具体的に褒める「すごい!」「えらい!」といった抽象的な褒め言葉は、何が良かったのか伝わりにくいです。
「ブロックを上手に並べられたね、すごい!」「ブロックを正しく数えられたね、すごい!」というように、まず「具体的な行動」を描写してから褒めます。
すぐに褒める良い行動を見たら、後でまとめてではなく、その場ですぐに褒めてください。
「この行動=良いこと」と強く結びつくことで、ASDの子の「こだわり」が良い方向(良い行動を繰り返す)に向かうことがあります。
「過程(プロセス)」を褒める結果(100点取れた、とか)だけを褒めるのではありません。
「今日も宿題やってて偉いね」「毎日お手伝いしてくれてありがとう」といった「継続している努力(過程)」にフォーカスします。
結果がうまくいかなくても、「最後まで頑張ったね」と頑張り自体を評価することが、失敗を恐れずに挑戦できる心を育てます。
「スモールステップ」で課題設定する褒めるチャンスを増やすために、課題のハードルをうんと下げてあげてください。

ゆう先生の補足解説:スモールステップとは?
大きな目標(例:漢字を全部覚える)を、いきなりやらせようとしても、難しくて挫折してしまいます。そうではなく、目標を非常に細かく、簡単なステップに分解することです。
例えば、3年生の漢字が書けなくても、1年生の漢字ドリルからもう一度やってみる。すると「スラスラできる!」という体験ができます。この「できる!」という流れを作った上で、少しずつレベルを上げていくのが大事です。
「好き」を活かす勉強が嫌いでも、ウルトラマンが好きなら、プリントにウルトラマンの絵を描いてあげる。
それだけで意欲的に取り組めることも多いのがASDの子の特徴です。「好き」なことを入り口にすることで、集中できる時間も長くなり、成功体験のチャンスが増えますよね。
サポート④ 感覚の違いに気づき「寄り添う」
ASDのお子さんには、感覚の違い(過敏さや鈍麻さ)があることが多いです。
【ゆう先生の補足解説:感覚過敏(かんかくかびん)と感覚鈍麻(かんかくどんま)】
- 感覚過敏:特定の感覚(音、光、匂い、肌触りなど)を、他の人よりも非常に強く、時には苦痛として感じてしまう特性です。(例:特定の服しか着られない、教室のざわめきが耐えられない)
- 感覚鈍麻:逆に、感覚を感じにくい特性です。そのため、より強い刺激を求めて、ぐるぐる回ったり、強くぶつかったりする行動(感覚探求)に出ることもあります。
これは「ワガママ」や「我慢が足りない」のではなく、脳の「特性」です。聴覚過敏の子に「うるさい教室で勉強しろ」というのは、僕らにとって拷問に近いんです。
まずは、その子の不快さを「配慮」してあげることが大事です。イヤーマフをつける、静かな空間を用意するなど、快適な環境を整えてあげる。
不快な感覚があると、子どもはそこにエネルギーを消耗してしまいます。その土台を整えてあげることで、初めて本人が持っている本来の力を発揮できるんです。
サポート⑤ 「分かりやすく伝え合う」工夫をする
これも支援の土台ですね。
- 曖昧な表現(「ちゃんと」「しっかり」)は避ける
- 長く話さず、「短く」「具体的に」
- 「〇〇しないで」より「〇〇しようね」と肯定的に
これらを意識するだけでも、コミュニケーションは大きく変わります。
そして、分かりやすく伝える大前提として、「大人が子どもの行動(SOS)に気づく」ことがスタートです。
困った行動には必ず理由があります。「今、この子は楽しんでるのかな?それとも不安でパチパチしてるのかな?」とその行動の裏にある気持ちを想像してあげてください。

ゆう先生の補足解説:二重共感の問題(にじゅうきょうかんのもんだい)
これは、「ASDの子は共感性が低い」のではなく、「ASDの人」と「定型発達の人」とでは、物事の感じ方や表現方法が違うため、お互いに共感し合うのが難しい、という考え方です。
僕たちが「あの子の気持ちが分からない」と思っている時、あの子も「お母さんの言っていることが分からない」と思っています。
ASDのお子さんは、自然に「空気を読んで」学ぶのが苦手です。だから、「教えられて」「学んで」覚えます。
お母さんが「こういう顔の時は、悲しいんだよ」とカードを見せながらでも、こまめに「教え続けてあげる」こと。それが、お互いが分かり合うための大切な一歩になります。
保護者の方へ:一番大切な心構え
ここまで5つのサポートをお話ししましたが、最後に一番お伝えしたいことがあります。
完璧を目指さず、できることから一つずつ
今日お話ししたこと全部を、明日から完璧にやろうとする必要はまったくありません。お父さん、お母さんもスモールステップです。
「今日は、具体的に褒めることだけ意識してみよう」
「今週は、朝のスケジュールだけ貼ってみよう」
それで十分です。気づけば1ヶ月後、3ヶ月後、ご自身もお子さんもすごく成長していることに気づくんじゃないかな、と思います。
ひとりで抱え込まず、早期支援を
もし「家だけではどうしていいか分からない」と感じたら、絶対に一人で抱え込まないでください。児童発達支援センターや相談支援事業所など、専門家を頼ってください。
脳は、経験や学習によって変化しやすい性質を持っています。
特に乳幼児期は、この「脳の可塑性」が非常に高い時期です。この時期に適切な支援(療育)を受けることは、お子さんの将来の可能性を大きく広げることにつながります。
「様子見」よりも、まずは相談してみることが、お子さんにとって大きなきっかけになるかもしれません。
自分を責めないでください
お子さんのことで悩んでいる時、「辛いな」「なんでこうなんだろう」と思うかもしれません。でも、その不安や混乱、孤独感は、お父さんお母さんが真剣にお子さんと向き合っている証拠です。
その気持ちは、すごく大事な気持ちだと思います。
でも、その気持ちを抱え込みすぎると、お父さんおKあさん自身が折れてしまいます。長く続けていくことが、結局はお子さんのためになります。どうかご自身のことも大切にしてください。
親の健康が、子どもの安心につながる
結局のところ、お子さんにとっての一番の安心材料は、お父さんお母さんが心身ともに健康で、安定していることです。
しっかり睡眠をとる、休息をとる、自分のための小さな喜びを見つける。完璧を求めすぎず、ご自身の心の安定を最優先にしてくださいね。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- サポートの基本は「視覚支援」です。スケジュールや手順書で「見える化」し、子どもが安心できる環境と「次」への見通しを作ってあげましょう。
- 「すごい」という抽象的な言葉ではなく、「〇〇できたね」と具体的に、すぐに、そして結果だけでなく「過程」も褒めることで、小さな成功体験を積み重ね、自信を育てていきましょう。
- 感覚の違いを「ワガママ」ではなく「特性」として理解し、環境を調整すること。そして「二重共感の問題」を乗り越えるため、「教えて」「伝え合う」工夫を根気よく続けることが、お互いの理解につながります。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

