ASDの癇癪・パニックはSOSのサイン!現役指導員が教える「困った行動」の本当の理由とABC分析
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんが見せる『困った行動』の本当の理由」についてです。
「うちの子が癇癪(かんしゃく)を起こすと、手が付けられない…」
「どうして急にパニックになったり、物を投げたりするんだろう?」
「自傷や他害があって、どう対応していいか分からず、こっちが参ってしまう…」
そんな風に、お子さんの行動に深く悩んでいませんか?
ASDのお子さんが取る行動の多くは、単なる「問題行動」や「ワガママ」ではありません。それは、彼らの不安や苦痛、欲求などを周囲に伝えようとする、精一杯の「SOSのサイン」なんです。
今日は、その行動の背景をどう理解し、どう対応していけばいいのか、その考え方のキホンをお話ししていきます。
「困った行動」は、本人が一番「困っている」サイン
まず最初に、皆さんと共有したい一番大切な視点があります。
癇癪、パニック、自傷(自分を傷つける)、他害(他人を傷つける)、逃避(逃げ出す)、物の破壊…。
こうした行動を見た時、周りの大人は「どうしてこの子はこんなことをするんだろう」と困惑し、時には怒りを感じてしまうかもしれません。
でも、療育の現場でいつも言われているのは、「困っているのは、誰よりも本人なんだ」ということです。
お子さん本人は、癇癪を起こしたくて起こしているわけではありません。
自分でもどうしようもない不安、感覚的な苦痛、要求が通らないもどかしさ、そういったものが原因で、結果としてそういった行動になってしまっているんです。
表面的な行動だけを見て「問題だ」と捉えるのではなく、その裏にある本人の「苦痛」や「伝えたいこと」を理解しようとする姿勢。それが支援のスタートラインになります。
なぜその行動が起きるのか?SOS行動の5つの背景
では、具体的にどのような背景があるのでしょうか。代表的な行動をいくつか見ていきましょう。
1. 癇癪(メルトダウン):耐えがたい感情の爆発
ASDのお子さんが見せる癇癪は、激しく泣き叫んだり、興奮して混乱したりと、まさに「感情の爆発」であることが多いです。
定型発達のお子さんの癇癪が「おもちゃが欲しい」といった目的達成のために起こることがあるのに対し、ASDのお子さんの場合は、それ以上に「耐えがたい状況」から来る圧倒的な感情の爆発である場合が多いんですよね。
- 感覚的な過負荷(カフカ):周りがうるさすぎる、光が眩しすぎる、人混みが辛いなど。
- 要求が通らないフラストレーション:やりたいことができない、やめさせられる。
- 予期せぬ変化への戸惑い:急に予定が変わった、いつもと違う道を通った。
こういったことが引き金になります。
動画内でも「メルトダウン」という言葉を使っていますが、これは一般的な「癇癪(たんしゃく)」とは少し区別して考えた方が分かりやすいかもしれません。
- 癇癪(Tantrum):多くの場合、「お菓子を買ってほしい」など明確な目的があり、それが達成されると(あるいは諦めると)比較的早く収まることがあります。ある意味、相手をコントロールしようとする意図的な側面も持ちます。
- メルトダウン(Meltdown):ASDの特性に関連するもので、感覚的な過負荷や強いストレス、予期せぬ変化などによって、脳が処理できる情報量を完全に超えてしまった状態です。これは**意図的ではなく、本人のコントロールが効かない「爆発」**です。目的達成のためではなく、ただただ圧倒的な苦痛から起こっています。
2. 自傷と他害:意図的ではない「苦痛」の表現
自分を叩いたり、頭を壁に打ち付けたりする「自傷」や、人を叩いたり、噛み付いたりする「他害」。これは、保護者の方にとって最も対応に悩む行動かもしれません。
大人は「やめなさい!」と強く指導しがちですが、その背景を理解することが重要です。
ADHDの特性を併せ持っているお子さんの場合、衝動的に「止めたいけど止められない」ということもあります。
これらも、多くは「自分を傷つけたい」「他人を傷つけたい」という意図とは異なり、以下のような理由から衝動的に起こっています。
- 強い苦痛(身体的な痛み、感覚的な不快感)
- 要求や気持ちを言葉で伝えられないもどかしさ
- 自分のスペースを守ろうとする防衛的な反応
3. 上動行動(スティミング)の激化:ストレスのサイン
手や指をヒラヒラさせる、体を揺らす、その場でクルクル回るといった行動を「上動行動(じょうどうこうどう)」または「スティミング」と呼びます。
これ自体は悪いことではなく、むしろ不安やストレスを自分で調整しようとしている(自己調整)サインなんです。
注目すべきは、その行動が「いつもより激しくなっている」時。それは、お子さんが強い不安やストレスを感じていたり、感覚的な刺激が強すぎる(または弱すぎる)ことの現れです。

ゆう先生の補足解説:常同行動(スティミング)とは?
スティミング(Stimming / Self-stimulatory behavior)は、感覚的な刺激を自分で生み出すための反復的な行動を指します。
これは「意味のない行動」ではなく、ASDのお子さん(そして私たち定型発達者も、程度は違えど行います。例:貧乏ゆすり、ペン回し)にとって重要な役割があります。
- 不安や興奮を落ち着かせる(自己調整)
- 強すぎる感覚入力を遮断する(シャットアウト)
- 足りない感覚刺激を補う(自己刺激)
この行動を無理にやめさせようとすると、彼らから大切な「調整手段」を奪うことになりかねません。
4. 逃避と回避:本能的な「NO」のメッセージ
その場から逃げ出したり、活動への参加を強く拒んだりする行動です。これはもう「そこにいたくない」という、とてもシンプルで強力なメッセージです。
これには、以下のような理由が考えられます。
- その場所・状況に対する強い不安
- 感覚的な苦痛(うるさい、眩しい、臭いなど)
- 課題の困難さ(やり方が分からない、失敗するのが怖い)
人間の脳には、危険に直面した時に「戦うか、逃げるか(Fight or Flight)」という本能的な反応がありますが、これはまさに「逃げる(Flight)」の反応です。
本人が見える世界の中では、そこが「危険な場所」と判断されているんですよね。
5. 物の破壊:コントロールできないフラストレーション
鉛筆を折ったり、物を投げたりする行動です。これも癇癪(メルトダウン)と近く、本人の中でどうしようもできない感情や刺激の高まりを、衝動的に発散させているケースが多いです。
落ち着いた後に「どうしてあんなことしたの?」と聞くと、本人も「分からない」「やっちゃいけないとは思ったけど…」と答えることもあります。
支援の第一歩:行動の「意味」を探るABC分析
さて、ここまで「困った行動」の背景にある理由を見てきました。
ここからは、じゃあどうやってその「理由」を探っていけばいいのか、という具体的な分析方法のお話です。
なぜ「分析」が必要なのか?
大事なのは、「行動を無理やりやめさせる」前に「行動の“意味”を探る」ことです。
多くの場合、私たちは「物を投げた」という「行動そのもの」だけを見てしまいがちです。でも、行動は単体で起きているわけではありません。必ず「行動の前」と「行動の後」があります。
支援の出発点は、その「前後」を見ることです。
どんな行動にも、本人なりの意味や理由があるからこそ、その行動は繰り返されます。そこを見ないまま、行動だけをやめさせようとしても、根本的な解決にはなりません。
ABC分析とは?(先行事例・行動・結果)
その行動の前後関係を分析する、非常に強力なツールが「ABC分析」です。
これは、療育の現場では必ずと言っていいほど使う考え方です。
ABC分析は「応用行動分析(ABA)」という考え方に基づいた分析方法です。行動を以下の3つの要素に分けて記録・分析します。
- A (Antecedent = 先行事象)行動の「直前」に何が起きたか?(場所、時間、人、指示、音など)例:「お母さんが弟に話しかけた」「おやつの時間になった」「”お片付けして”と言われた」
- B (Behavior = 行動)本人が「どんな」行動をしたか?(具体的に、客観的に)例:「大声で叫んだ」「床に寝転がった」「おもちゃを投げた」
- C (Consequence = 結果)行動の「直後」に何が起きたか?(周りの反応、本人が得たもの・避けたもの)例:「お母さんが飛んできて注目した」「おやつがもらえた」「お片付けが免除された」
このC(結果)の部分で、本人にとって「良いこと」が起きると、そのB(行動)は「強化」され、将来また同じA(先行事象)が起きた時に、同じB(行動)を繰り返す可能性が高くなります。
ABC分析の具体例(じゃんけんの例)
動画でお話しした「じゃんけん」の例で見てみましょう。
- A (先行事象):友達とじゃんけんをした。
- B (行動):じゃんけんに負けた。その場で泣きながら癇癪を起こした。
- C (結果):周りの大人が困って、「じゃあ、もう1回だけね」と、もう一度じゃんけんをさせてくれた。(そして勝てた)
この場合、お子さんは何を学習するでしょうか?
「じゃんけんで負けても、泣いて癇癪を起こせば(B)、もう一回やらせてもらえる(C)」
ということを学習してしまいます。
つまり、C(結果)がB(行動)を「強化」してしまったんです。
こうして分析できると、対応が見えてきます。この場合は、C(結果)を変える(泣いてももう一回はやらせない)か、それ以上にA(先行事象)の時点で介入する(=プロアクティブな支援)ことが大事だと分かります。
Aの時点で、「じゃんけんは負けることもあるよ」「負けても”まあいっか”って言うんだよ」と事前にルールを設定(構造化)しておく、といった対応が考えられますね。
行動の「4つの目的」を見極める
ABC分析で見えてきた「行動の理由」は、大きく分けて以下の4つの「目的」に分類できると言われています。
お子さんのSOS行動が、このどれに当てはまるのかを考えることが、次の具体的な支援につながります。
1. 注目(注意喚起)
目的:「こっちを見てほしい」「関わってほしい」
例:お母さんが兄弟にかかりきりな時に、わざと大きな声を出したり、物を投げたりする。
支援の工夫:
「悪い行動」と「良い行動」で、刺激の強弱を使い分けます。
- 悪い行動(大きな声など):極力反応しない(能動的な無視)。ここで注目すると、行動が強化されてしまいます。
- 良い行動(静かに待てた、など):ものすごく反応する(強刺激)。「静かに待てて偉いね!」と強く褒めます。
日頃から信頼関係を築き、「悪いことをしなくても、あなたを見ているよ」という安心感を育てることが土台になります。
2. 要求(欲しい・やりたい)
目的:「あれが欲しい」「これがしたい」「あれは嫌だ」
例:お店でお菓子が買ってもらえず、大泣きして癇癪を起こす。
支援の工夫:
ここが一番難しいかもしれません。基本は「間違った要求(癇癪)には応えない。正しい要求の仕方を教える」です。
癇癪を起こした時、その場を収めるためにお菓子を与えてしまうと、それは「癇癪を起こせば買ってもらえる」という学習をさせてしまいます(ABC分析のCですね)。
できる限り、まずはお子さんが落ち着くのを待ちます。そして、「正しい行動(言葉で”欲しい”と言う、カードで示すなど)」を淡々と教え、それができた時に初めて要求に応えます(あるいは褒めます)。
時間も根気も必要ですが、この「正しい伝え方」を教えていくことが、長い目で見て本人の助けになります。
3. 回避・逃避(嫌だ・怖い)
目的:嫌な課題、場所、人、感覚刺激から「逃れたい」「避けたい」
例:学校に行きたくない、特定の教室に入れない、課題を前にすると逃げ出す。
支援の工夫:
この場合、無理に行かせるのは逆効果です。本人は強い不安や苦痛を感じているので、まずはその「回避の原因」を探ることが最優先です。
- 環境調整(うるさい場所ならイヤーマフを許可する、など)
- 合理的配慮(課題のレベルを下げる、など)
- 見通しを持たせる(動画や写真で、行く場所ややる事を事前に見せて安心させる)
ストレッサー(ストレスの原因)を特定し、それを取り除くか、和らげる工夫をすることで、「ここなら大丈夫かも」という安心感を育てていきます。
4. 感覚刺激(自己刺激)
目的:行動そのものから得られる「快」の感覚のため(または「不快」を打ち消すため)
例:手をヒラヒラさせる、体を揺らす(上動行動)。または、刺激が足りなくて自傷してしまうケースも。
支援の工夫:
これも無理にやめさせるのではなく、「満たせる状況を定期的に作る」ことが大事です。
- リフレッシュできる時間や場所をスケジュールに組み込む(例:トランポリンの時間)
- 代替刺激を見つける(例:手を噛む代わりに、噛んでも良いおもちゃを渡す)
- 感覚過敏の場合は、刺激のない空間(クールダウンできる場所)を用意する
「他者に依存せず、自分で自分を調整できる方法」を一緒に見つけていくことがゴールになります。
支援のゴール:リアクティブから「プロアクティブ」へ
ここまで、行動の分析と4つの目的についてお話ししてきました。
最後に、支援者や保護者が持つべき「心構え」についてです。
- リアクティブ(Reactive):問題が起きてから対応すること。(例:癇癪を起こした子を叱る)
- プロアクティブ(Proactive):問題が起きる前に予防すること。(例:癇癪の原因を分析し、環境を調整しておく)
僕たちが目指すべきは、圧倒的に後者の「プロアクティブなアプローチ」です。
風邪を引いてから薬を飲む(リアクティブ)のではなく、風邪を引かないように手洗いうがいをする(プロアクティブ)。それと同じです。
お子さんがSOSを出さざるを得ない状況になる前に、ABC分析で「A(先行事象)」を特定し、そこを調整してあげる。
それが、お子さんにとっても、ご家族にとっても一番負担の少ない、優しい支援なんですよね。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- ASDのお子さんが見せる癇癪、パニック、自傷、他害などの「困った行動」は、ワガママではなく、本人が苦痛や不安を感じている「SOSのサイン」です。
- その行動の背景にある原因を探るために、ABC分析(A:先行事象、B:行動、C:結果)というツールが非常に有効です。
- 行動の「本当の目的」は、主に「①注目」「②要求」「③回避」「④感覚刺激」の4つに分類され、それぞれ対応方法が異なります。
- 問題が起きてから叱る「リアクティブ」な対応ではなく、原因を先読みして環境を整える「プロアクティブ(予防的)」な支援が、お子さんの安心につながる鍵となります。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

