「知的障害」と「発達障害」の違いとは?富山の現役指導員が“全般的”と“部分的”の差を解説
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「知的障害と発達障害の違い」についてです。
「知的障害と発達障害って、何がどう違うの?」「うちの子はどっちに当てはまるんだろう?」と、この二つの言葉の違いについて混乱されている方もいらっしゃるかもしれませんね。
「知的障害(ID)」とは何か?
まず、「知的障害(ID: Intellectual Disability)」とは何かについて解説します。
知的障害は、「知的機能」と「適用機能」の両方に困難があり、それが「発達期(18歳未満)」に発症する神経発達障害群の一つとされています。
この診断には、次の3つの要素が「すべて」満たされている必要があります。
1. 知的機能の制約
これは、推論したり、学習したりする精神的な機能に明らかな制約がある状態を指します。
皆さんも「IQテスト」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、これは知能指数を測るもので、平均が100とされています。
知的障害の診断基準の一つとして、このIQがおおむね70以下であること、という目安があります。
学習面だけでなく、物事を考えたり、自分をコントロールしたりする力も含めた総合的な評価がなされます。

ゆう先生の補足解説:境界知能(ボーダーライン)とは?
IQテストの結果、IQが71〜84の範囲にある場合、「境界知能」と呼ばれることがあります。
これは、知的障害(IQ70以下)とは診断されないけれど、平均的な知能(IQ85以上)よりは低い水準にある状態を指します。
知的障害ではないため福祉的な支援につながりにくい一方で、日常生活や学習面で困難を抱えやすいことから、「発達グレーゾーン」の一つとして注目されています。知的障害とは明確に区別される概念ですね。
2. 適用機能の制約
これが非常に重要なポイントです。
適用機能とは、社会生活や日常生活を「年齢相応に」送るための力に制約があるかどうか、ということです。
この適用機能は、大きく3つの領域で評価されます。
- 概念的領域:時間の管理、金銭の管理、読み書き計算など
- 社会的領域:人への共感、対人判断(騙されやすさなど)、コミュニケーション
- 実用的領域:食事、身支度、通院や通学の管理、家事など
簡単に言うと、「人の手を借りなければ、なかなか生活が難しい」状態かどうか、という点が評価のポイントになります。
3. 発達期(18歳未満)での発症
これらの「知的機能」と「適用機能」の欠陥が、18歳未満の子供の期間に現れている必要があります。
なぜ18歳未満かというと、例えば大人になってから事故で脳を損傷して知的機能が下がった場合や、高齢になって認知機能が低下した場合は、発達期に生じた「知的障害」とは区別されるためです。
知的障害の「重症度」による4つの段階
知的障害と診断された場合でも、その程度によって必要な支援は大きく異なります。「軽度」「中度」「重度」「最重度」の4つの段階があります。
軽度
幼児期には発達の遅れが目立たないこともありますが、小学校に上がってから学習面(読み書き、計算、時間管理など)での困難さが明らかになることが多いです。
対人関係に弱さが見られることもありますが、身の回りのこと(食事、トイレ、着替えなど)は自分でできることが多いのが特徴です。
将来的に、比較的単純な内容であれば職業スキルを習得し、仕事に就くことも可能です。
中度
学習能力の発達は、生涯にわたって限定的です。小学校1年生の算数や国語の段階から、理解が難しいことが頻発するかもしれません。
コミュニケーションも、家族や親しい友人など、限られた範囲でのやり取りが中心になります。
身辺自立(食事や着替えなど)も、長い期間の指導や促しがあればできるかもしれませんが、自立して行うことは難しい傾向があります。
重度
勉強というよりも、日常生活のあらゆる場面で広範囲な支援が必要な状態です。
読み書きや数の理解は難しく、言葉でのコミュニケーションも、単語や短いフレーズが中心になることが多いです。
食事や入浴など、あらゆる場面で支援が必要であり、初めての場所でパニックになったり、不安から自傷行為(頭を打ち付けるなど)が見られたりすることもあります。
最重度
日常生活のあらゆる側面で、他者に完全に依存する状態です。
概念的な理解はほぼ難しく、コミュニケーションも言葉ではない方法(非言語的)で欲求や感情を表現することが多くなります。
食事や着替え、移動など、すべての活動において支援が必要となり、ご家族だけで抱え込むのは非常に困難です。この段階では、100%、福祉や医療と連携して対応していくことが不可欠です。
「発達障害」とは何か?(おさらい)
一方で、「発達障害」とは何でしょうか。
これは、脳の発達に偏りがある多様な障害群の総称です。知的障害が「全般的」な能力の問題であるのに対し、発達障害は「部分的」な特性の偏りを持ちます。
- ASD(自閉スペクトラム症):コミュニケーション、対人関係、強いこだわり、感覚の過敏さや鈍麻さといった特性があります。
- ADHD(注意欠如・多動症):「不注意」「多動性」「衝動性」といった特性が見られます。
- SLD(限局性学習障害):知的発達には問題がないのに、「読む」「書く」「計算する」など特定の学習だけが極端に苦手な状態です。
【重要】知的障害と発達障害の決定的な違い
ここが今日の最大のポイントです。
知的障害と発達障害の違いは、その困難さが**「全体的」なのか「部分的」**なのか、という点にあります。
- 知的障害:全般的な知的能力や生活機能(適用機能)に困難が見られる状態。
- 発達障害:特定(部分的)の領域(例:コミュニケーションだけ、不注意だけ、読みだけ)に困難が集中している状態。
例えば、「勉強ができない」という一つの事象をとっても、
「日常生活は問題ないけれど、書くことだけが極端に苦手」という場合は、発達障害(SLD)の可能性が考えられます。
「日常生活のスキル(適用機能)も年齢相応よりゆっくりで、かつ、学習全般(読む・書く・計算すべて)に困難がある」という場合は、知的障害の可能性が考えられます。
知的障害と発達障害が「併存」する場合も
ここまで「知的障害は全体」「発達障害は部分」と分けて説明してきましたが、最後に少し話を複雑にしてしまうかもしれません。
実は、知的障害と発達障害の両方の特性を併せ持つ(併存する)ケースも珍しくありません。
例えば、
- 知的障害(全体的な困難)があり、かつ、ASD(コミュニケーションの特性)も持っている。
- 知的障害(全体的な困難)があり、かつ、ADHD(多動・衝動性)も持っている。

ゆう先生の補足解説:なぜ専門家への相談が大切か?
このように、特性が複雑に併存している場合、ご家庭だけで「うちの子はどのタイプだろう?」と判断し、適切な支援方法を見つけるのは非常に困難です。
「コミュニケーションが苦手」なのが、ASDの特性によるものなのか、あるいは知的障害による全体的な理解の困難さから来ているのかによって、アプローチの方法が変わってくるからです。
だからこそ、「困ったな」と感じたら、ご家族だけで抱え込まずに、療育施設や病院などの専門機関に相談し、「うちの子の場合はどうなのか」を一緒に考えていくことが本当に大切なんですよね。
【6】まとめ
今日の記事では、「知的障害」と「発達障害」の違いについて、それぞれの定義や特徴を解説しました。
- 知的障害の診断には、「知的機能(IQ70以下目安)」「適用機能(生活スキル)」「発症時期(18歳未満)」という3つの基準すべてを満たす必要があります。
- 知的障害は「全般的」な能力に困難があるのに対し、発達障害はコミュニケーションや注意、学習など「部分的」な領域に困難が見られるという違いがあります。
- ただし、実際には両方の特性が「併存」しているケースも多く、支援が複雑になるため、専門家との連携が非常に重要です。
結論:読者へのメッセージ
正直、この動画を撮っている僕自身も、知的障害と発達障害の関係性や区分けは、本当に難しいなと感じることがあります。
ただ、どんな診断名がついたとしても、それがお子さんの一つの「個性」であることは間違いありません。
焦らず、できることから一歩ずつ進んでいっていただければと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの**「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」**ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

