発達障害の「デコボコ」を強みに変える支援とは?富山の指導員が教える3つの視点
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、発達障害のあるお子さんの「発達のデコボコ」を理解するための3つの視点についてです。
発達の「デコボコ」とは?―平均との差ではなく「本人の中の差」
発達障害のあるお子さんのことを「発達のデコボコがある」なんて言い方をすることがありますよね。
この「デコボコ」って、一体何のことでしょうか。
デコボコの確信は、「個人内差(こじんないさ)」、つまり「本人の中での能力の差」が非常に大きい状態を指します。
周りの集団の平均と比べて高いとか低いとか、そういう話ももちろんあるんですが、それ以上に本質的なのは、「本人の中」でのバラつきなんです。
- ある特定の部分は、突出して高い能力(デコ)を持っている。
- でも、別の特定の分野では、著しく低い能力(ボコ)を持っている。
この「デコ」と「ボコ」の差が激しいことが、発達障害の特性の本質であり、生きづらさにつながっていくわけです。
例えば、こんなデコボコがあります。
- 得意(デコ):アニメのキャラクターの名前や設定は完璧に覚えている。
- 苦手(ボコ):でも、明日の持ち物や宿題の準備は、すっかり忘れてしまう。
お父さんお母さんからすると、「あんなに記憶力がいいのに、なんでこれくらい覚えられないの?」と不思議に思ってしまうかもしれません。
でも、これが「デコボコ」なんですよね。「物事の名称を覚える」という力と、「タスクを順序立てて準備する」という力は、全く別物なんです。
このアンバランスさがあるために、平均的に安定して生活することが難しかったり、応用が利きづづらかったりするわけです。
だからこそ、僕たち支援者が考えるべきは、この「デコ」の部分、つまり突出して高い部分をどう活かしていくか。
そして、「ボコ」の部分、つまり著しく低い部分を、どうやって外部の環境設定などで埋めていくか。ここがすごく大事になってくるんです。
お子さんを立体的に理解する「3つの視点」
では、そのデコボコをどうやって理解すればいいのでしょうか。
僕は、お子さんを立体的に見るために、「3つの視点」を持つことがとても大事だと思っています。
- 認知特性(本人のプロファイル):本人が元々持っている特性(ASD、ADHDなど)や、得意・不得意のパターンはどうか。
- 生活場面での困難:その特性が、日常生活(学校、家庭など)で、どのように困難さとして現れているか。
- 環境との相互作用:その特性と、今の「環境」が、どう作用しあっているか。(ミスマッチを起こしていないか)
この3つを総合的に把握することで、初めて本人のデコボコが理解でき、最も効果的な支援や配慮を設計することができるようになります。
【視点1】認知特性(プロファイル)を理解する
まずは、本人の中にある「デコボコ」の地図(プロファイル)を理解することから始まります。
弱みの裏に隠された「強み」を見つける
発達障害の診断名、例えばASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)と聞くと、どうしてもネガティブな側面が強調されがちですよね。
- ASD = こだわりが強い、コミュニケーションが苦手
- ADHD = 多動、衝動的、不注意
でも、物事には必ず両面性があります。特性の裏側には、実は「強み」が隠れていることが多いんです。
- ASDの「こだわりが強い」
- 弱み:融通が利かない、切り替えが難しい。
- 強み:正確性が高い、秩序を重んじる、ルールをきっちり守れる。
- ADHDの「多動・衝動的」
- 弱み:落ち着きがない、順番を待てない。
- 強み:柔軟な発想力、瞬発力、行動力がある、盛り上げ役になれる。
このように、弱みだと思っている部分が、場面や環境によっては最大の強みになる可能性を秘めています。
この「強み」をどう活かしていくかを考えることが、療育ではとても大切なんですよね。
WISC(ウィスク)検査で「特性の地図」を見る
「うちの子の強みや弱みって、客観的にどうなってるんだろう?」
そう思ったときに役立つのが、WISC(ウィスク)などの心理検査です。

ゆう先生の補足解説:WISC(ウィスク)検査とは?
WISC(ウィスク)検査は、児童(主に5歳〜16歳11ヶ月)の知能や認知の特性を測るために、世界中で広く使われている心理検査です。「WAIS(ウェイス)」という、大人版の検査もあります。
大事なのは、この検査は「頭が良い・悪い」を測るためだけのものではなく、「その子がどんな風に物事を考え、理解しているのか(認知の特性)」を見るための「地図」を手に入れるようなものだということです。
このWISC検査の結果を見るとき、多くの人が「IQがいくつだった」という総合的な数値だけを気にしてしまいがちです。
でも、本当に見るべきなのは、そこじゃありません。
見るべきは、「何が高くて(デコ)、何が低いか(ボコ)」という、項目ごとの「差」なんです。
総合IQが110と高く出ていても、中身を見たら「言語理解」はすごく高いのに、「処理速度」はすごく低い、というような大きなデコボコがあるかもしれません。
このデコボコこそが、本人の困り感の原因であることが多いんです。
WISCの4つの指標が示す「デコボコ」の例
WISC検査は、主に4つの指標で能力を見ます。この4つのバランスを見ることで、お子さんの特性の地図が見えてきます。
「言語理解」は、言葉を理解し、言葉を使って考え、言葉で表現する力のことです。
語彙の豊富さ、知識、社会的ルールの理解などが含まれます。
ここが低い(ボコ)場合:
- 複雑な指示や、長い説明の理解が難しい。
- 自分の気持ちや考えを言葉で説明するのが苦手。
- 皮肉や比喩の理解が難しい。
支援の工夫:
- 言葉をシンプルに、短く伝える。
- 絵や図など、視覚的な補助(見える化)を活用する。
※検査のバージョンによって名称が少し違いますが、似た力を測っています。
これは、目で見た情報を捉え、整理したり、パズルや図形のように手や頭の中で操作したりする力です。「手で物事を考える力」とも言えます。
ここが低い(ボコ)場合:
- パズルやブロックの組み立て、図形問題が苦手。
- 整理整頓が苦手。
- 板書を写すのが遅い、ハサミやボール運動が苦手。
- 探し物を見つけるのが苦手。
支援の工夫:
- 整理整頓のやり方を、写真などで手順書にして示す。
- 動作を言葉で実況中継しながら教える(聴覚的な強みでカバーする)。
「ワーキングメモリー」は、情報を一時的に記憶(保存)しながら、それを使って作業(操作)する能力です。「脳のメモ帳」によく例えられます。
(ちなみに、発達にデコボコがあるお子さんは、ここが低く出ることが比較的多い印象がありますね)
ここが低い(ボコ)場合:
- 複数の指示(「手を洗って、うがいして、タオルで拭いて」など)を覚えられない。
- 作業中に目的を見失い、他のことに目移りしやすい(注意散漫)。
- 暗算や、文章の構成を考えるのが苦手。
- 忘れ物が多い。
支援の工夫:
- 指示は「1つずつ」出す。
- やることリスト(メモ)やスケジュール表など、外部の記憶補助具(見える化)を活用する。
- 集中できる環境を整える(無駄なものを置かない)。
「処理速度」は、簡単な視覚情報を、素早く正確に処理(識別、判断、行動)するスピードのことです。
資格と手の協応(目で見て手を動かす)の素早さ、とも言えます。
ここが低い(ボコ)場合:
- 時間制限のある課題(テストなど)が終わらない。
- 学校の板書が追いつかない。
- 作業のペースが全体的にゆっくりで、疲れやすい。
支援の工夫:
- 時間的な猶予を多めに与える。
- 課題の量を調整してあげる(小分けにする)。
このように、まずは本人の「特性の地図(デコボコ)」を理解することが、支援の第一歩になります。
【視点2】日常生活への影響と困難を理解する
視点1で「特性の地図」がわかったら、次に、そのデコボコが「日常生活のどんな場面で、どう影響しているか」を見ます。
例えば、ADHDの「衝動性」という特性が、
- 家ではあまり出ない。
- でも、学校では出やすい。
という場合、家と学校で何が違うのかを考える必要があります。家には物が少なく集中しやすい環境が整っているけれど、学校は友達という刺激が多いから、衝動性が出やすくなるのかもしれません。
特性は「両面性」を持つ
ここで大事なのが、先ほども触れた「両面性」です。
本人の特性は、場面によって「強み」にも「弱み」にもなります。
- 「集中力が高い」(デコ)
- 強みとして出る場面:好きな研究や作業をするとき。
- 弱みとして出る場面:切り替えが必要な時。「過集中」や「こだわり」として現れ、次の行動に移れない。
この「デコ」の部分が、ある環境では「弱み(ボコ)」として作用してしまうわけです。
デコボコを理解するというのは、本人の特性が「どういう場面で強く出て、どういう場面で弱く出るのか」を理解することでもあるんですよね。
【視点3】環境との相互作用を考える(支援の核心)
ここまで来ると、支援の核心が見えてきます。
視点1(特性)と視点2(生活場面)を理解した上で、最後に「じゃあ、どういう環境なら、その子は力を発揮できるのか?」を考えるのが、視点3です。
障害は「本人」の問題ではなく「環境とのミスマッチ」
発達障害の特性そのものが悪いわけじゃないんです。
本人の特性と、周囲の環境が「ミスマッチ」を起こしていること、それが困難や「障害」を生み出しているんです。
例えば、
- 大昔の狩猟採集時代なら、ADHDの「多動性」や「衝動性」は、獲物を素早く見つけて追いかける「強み」だったかもしれません。
- 農耕が始まって、同じ作業をコツコツ繰り返す時代になれば、ASDの「こだわり」や「規則性」が「強み」になったかもしれません。
このように、「障害」というのは、時代や環境によっても変化する、相対的なものなんですよね。
支援の基本は「環境調整」
本人の特性を変えるのは難しい。でも、環境を調整することは、僕たち大人ができることです。
- 聴覚過敏があるなら、イヤーマフを使えるようにする。
- 視覚的な情報が入りやすいなら、スケジュール表や手順書を用意する(構造化)。
- ワーキングメモリーが低いなら、指示を一つずつ出す。
このように、本人のデコボコに合わせて、弱みをカバーし、強みが活かされる環境を整えてあげること。これが最も効果的で、本人も安心できる支援だと僕は思います。
困難の背景は一つではない
「授業に集中できない」という一つの困りごとがあったとします。
その背景にあるのは、ADHDの「不注意」だけでしょうか?
- 実は「聴覚過敏」で、外の音や教室のざわめきが気になっているのかもしれない。
- 「視覚過敏」で、蛍光灯の光や掲示物がチカチカして辛いのかもしれない。
- 「学習内容のミスマッチ」で、授業が簡単すぎたり、逆に難しすぎたりして、意欲がわかないのかもしれない。
このように、一つの困難の背景には、複数の要因(デコボコ)が複雑に絡み合っていることが多いんです。
だからこそ、この3つの視点で立体的に本人を理解しようとすることが必要なんですよね。
家庭だけで抱え込まない
ここまで聞いて、「なんだかすごく難しそう…」と思われたかもしれません。
その通りで、デコボコの理解はとても細かく、ご家庭だけで全てを把握し、対応するのは本当に大変です。
だからこそ、僕たちのような児童発達支援施設や、病院の先生、学校の先生など、いろんな人と協力し、情報を交換しながら、一緒にお子さんの「特性の地図」を完成させていくことが大事なのかなと思います。
まとめ
今日の記事では、発達のデコボコを理解するための「3つの視点」についてお話ししました。
- まず、「デコボコ」の本質は、平均との比較ではなく、お子さん自身の**「得意(デコ)」と「苦手(ボコ)」のアンバランスさ(個人内差)**にあります。
- そのデコボコを立体的に理解するために、**「①認知特性(強み・弱みのプロファイル)」「②日常生活での困難」「③環境との相互作用」**という3つの視点が不可欠です。
- WISCなどの検査は、このプロファイルを知るための「地図」です。その地図を元に、本人の特性(弱み)と環境がミスマッチを起こしている部分を見つけ、弱みをカバーし強みを活かせるように「環境を調整」していくことが、最も効果的な支援につながります。
結論:読者へのメッセージ
お子さんの「自助努力」だけでこのデコボコを乗り越えるのは、本当に難しいことです。だからこそ、僕たち大人の介入、つまり環境を整えてあげるサポートが必要です。
まずは、お子さんが自分らしく生きられる環境を整備してあげる。その安心できる環境の中で「できる」という力をつけていけば、将来、少し違う環境に行ったときにも頑張れる力が育っていくと僕は信じています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

