発達障害の子どもを伸ばす「環境設定」とは?富山の指導員が教える療育の基本と関わり方
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、子どもを伸ばすための「環境設定」についてです。
療育の基本:「本人」を変えるのではなく「環境」を整える
発達障害の療育において、僕が一番大事だと感じていることの一つが、この「環境設定」です。
お子さんの成長を見ていると、その子が「どんな環境に置かれているのか」がすごく影響していると感じます。どういう場所で、どういう人と関わって、どんな習慣の中で過ごしているか。
正直に言うと、お子さん本人の特性、例えば遺伝的な要因を変えることって、すごく難しいんですよね。でも、外部の環境(生活環境や関わり方)は、僕たち大人が介入して変えることが可能です。
特性は変わらなくても、過ごす環境によっては、その子の良いところがたくさん出るようになったり、逆に悪いところ(困った行動)が抑えられたりします。
ですから、発達障害の療育でまず最初に取り組むべきことは、「環境を整えること」だと僕は強く感じています。
「環境」には2種類ある
「環境」と聞くと、部屋の片付けや物の配置といった「物理的な環境」をイメージしがちですが、それだけではありません。
- 物理的環境:物の配置、部屋のレイアウト、スケジュール表など
- 人的環境:保護者の方の関わり方、コミュニケーションの方法、言葉かけ
この両方を整えていくことが、お子さんの困難さを減らし、成長を促すことにつながります。今日はこの2つの側面から、具体的な工夫を解説していきます。
1. 物理的環境の整え方:「構造化」で安心感を生む
まず、物理的な環境を整える上で最も重要なキーワードが「構造化(こうぞうか)」です。

ゆう先生の補足解説:構造化(こうぞうか)とは?
「構造化」とは、時間や空間、活動などを、目に見える形で分かりやすく整理し、枠組みを作ることです。
特に自閉スペクトラム症(ASD)の特性があるお子さんは、「次に何が起こるか分からない」「ここで何をすればいいか分からない」という曖昧な状況が非常に苦手で、強い不安を感じることがあります。
構造化によって、「いつ・どこで・なにを・どうする」が明確になると、お子さんは「見通し(みとおし)」を持つことができます。
この「先が分かる」という安心感が、パニックを減らし、落ち着いて行動できる土台になるんです。
まずは「本人」の観察から
環境を変える前に、まずはお子さんの「得意・不得意」「好き・嫌い」「どんな感覚が苦手か」をよく観察し、整理する時間を持ってください。
よかれと思って環境を変えても、それが本人に合っていなければ、逆に行きづらくなってしまうかもしれません。
もし保護者の方の主観が入ってしまって分からない場合は、おじいちゃんやおばあちゃん、療育施設の先生など、第三者の視点で「この子はどういう特徴がありますか?」と聞いてみるのも良い方法だと思います。
① 時間と活動の構造化(視覚的スケジュール)
発達障害のあるお子さん、特に幼児期は、言葉で説明されるよりも「目で見て分かる情報」の方が圧倒的に理解しやすいです。
例えば、1日のスケジュールを「時間割り」のように、絵や写真、文字で壁に貼っておく(視覚的スケジュール)のがとても有効です。
- 7:00 おきる
- 7:15 トイレ
- 7:30 あさごはん
このように時間と活動内容を書いておくことで、「次は何をすればいいか」がお子さん自身で分かりやすくなります。
言葉で「早く起きなさい!」と言うよりも、スケジュールを指差して「今、何時かな?この時間は何するんだっけ?」と、コミュニケーションのツールとして使うこともできます。
また、終わりが分からないと不安になるお子さんも多いので、タイマーを活用するのも「時間の構造化」の一つです。
「このタイマーが鳴ったら、おしまいだよ」と、目に見えない「時間」を見える化してあげる工夫はとても大事ですね。
② 空間の構造化(刺激を減らし、定位置を決める)
空間の構造化で大事なのは、「刺激を整理して、過ごしやすい空間に整える」ことです。
- 活動スペースを区切る「寝る部屋」「食べる部屋」「勉強する部屋」が全部一緒だと、お子さんはその部屋で何をすべきか混乱し、一番やりたいこと(遊びなど)を優先してしまいがちです。できる限り、「遊ぶ場所はここ」「寝る場所はあっち」と空間を分けてあげることで、お子さんも「この部屋に来たらこれをやるんだな」と理解しやすくなります。
- 刺激を少なくする(無駄なものを置かない)目に入る情報が多いと、それだけで疲れてしまったり、集中力が途切れてしまったりします。特に勉強するスペースには、おもちゃなど関係ないものが目に入らないように工夫することが大事です。
- 物の定位置化(ていいちか)片付けが苦手なお子さんには、「物の住所」をしっかり決めること(定位置化)が重要です。「このおもちゃは、必ずこのカゴに戻す」というルールを徹底し、慣れてくればお子さんも当たり前のように片付けられるようになります。「どこに片付ければいいか分からない」という迷いがなくなるので、結果としてお子さんの疲れも減っていくんですよね。
2. 人的環境の整え方:「言葉」と「関わり方」の工夫
物理的な環境と同じくらい、いえ、それ以上に大事なのが、周りの大人の関わり方、つまり「人的環境」です。
3つのキーワード:「視覚的・具体的・肯定的」に伝える
お子さんへの伝え方で、ぜひ意識してほしい3つのキーワードがあります。
- 視覚的に先ほどの物理環境とも重なりますが、言葉で伝わりにくい時は、絵カードや写真を見せるなど、視覚的な支援を使いましょう。
- 具体的に「あれ取って」「ちゃんとやって」といった抽象的な言葉は、お子さんには伝わりません。「醤油を取って」「イスに座って」と、具体的に何をどうすればいいのかを伝えましょう。
- 肯定的に「走っちゃダメ!」ではなく、「歩こうね」。「散らかさないで!」ではなく、「箱に入れようね」。否定的な言葉(〜しないで)は、時に子どもを混乱させたり、反発心を招いたりします。「どうしてほしいのか」を肯定的な言葉で伝える方が、お子さんは行動に移しやすいです。
より伝わるためのコツ(聞き返しのテクニック)
さらに、お子さんにしっかり聞いている状態を作ってから話すことも大事です。
軽く肩を叩いて注意を引いてから話したり、話した後に「今、ママ(パパ)なんて言った?」と聞き返してみるのも有効です。
これは問い詰めるためではなく、お子さんが「理解しているか」を確認するためです。もし覚えていなかったら、もう一度教えてあげればいいんです。
このように、お互いの「言ったつもり」「聞いたつもり」という誤解をなくしていく作業が、スムーズなコミュニケーションにつながっていきます。
褒め方の原則:結果よりも「過程」を褒める
お子さんの自信を育むために「褒めること」はとても大事ですが、ここにもコツがあります。
それは、「具体的に」「すぐに」「感情を込めて」褒めること。
そして何より、「結果」よりも「過程」を褒めることを意識してほしいんです。

ゆう先生の補足解説:なぜ「過程」を褒めるのが良いの?
「100点取ってすごいね!」という「結果」だけを褒め続けると、子どもは「100点を取れない自分には価値がない」と考えがちになります。
一方で、「毎日コツコツ勉強してたもんね」「難しい問題も諦めずに頑張ったね」という「過程」を褒められると、子どもは「自分は頑張れるんだ」という自信(自己効力感)を持つことができます。
結果が出なくても、その頑張りを認めてもら
安心感の土台:「共感的な関わり方」
これまで色々なツールやテクニックの話をしましたが、それら全ての土台となるのが、保護者の方の「共感的なマインド」です。
お子さんが泣いていたり、怒っていたりするとき、その感情に寄り添って、「辛かったね」「頑張ったね」と言葉にして受け止めてあげる(感情の代弁)。
お子さんが話しているときに、「そうなんだね」と耳を傾けてあげる。
こうした共感的な関わりが、お子さんにとっての「安心感」の土台になります。この土台がしっかりしていないと、どんなに良いツールを使っても、どんなに環境設定を頑張っても、うまくいかないことが多いんです。
「環境」のもう一つの側面:感覚特性の理解
環境設定や関わり方を工夫しても、うまくいかないことがあります。その背景には、お子さん特有の「感覚」の問題が隠れているかもしれません。
いい環境を整えても、いい接し方をしても、本人の感覚特性によって、それがうまく伝わらないことがあるんです。
感覚過敏(かびん)
特定の刺激(音、光、匂い、肌触りなど)を、通常よりも非常に強く、時には「苦痛」として感じてしまう特性です。
例えば、聴覚過敏がある子に、良かれと思って「すごいね!」と大きな声で褒めたら、その「大きな声」自体が苦痛で、褒められた内容が頭に入ってこないかもしれません。
これは「わがまま」ではなく、脳の機能的な特性によるものです。
感覚鈍麻(どんま)
過敏とは逆に、刺激に対する反応が鈍い状態です。
例えば、怪我をしても痛みに気づかなかったり、力加減が分からなくてお友達を強く叩いてしまったりします。
触覚が鈍麻な子の場合、注意を引こうと軽く肩をトントンと叩いても、全く気づかないかもしれません。
感覚探求(たんきゅう)
絶えず強い刺激を求めてしまう状態です。
例えば、その場でクルクル回り続けたり、高い所から飛び降りたりします。
これは、感覚鈍麻があって刺激を感じにくいため、より強い刺激を求めている場合や、逆に過敏があって不安な刺激を打ち消すために、自分でコントロールできる強い刺激を入れている場合など、理由は様々です。
こうした感覚特性を理解した上で、「なぜこの子はこういう行動をするんだろう?」と考えてみると、必要な環境設定が見えてくることがあります。
例えば、感覚過敏でザワザワした場所が苦手な子のために、お家の中に「クールダウンできる安心な場所(スペース)」を作ってあげるのも、立派な環境設定の一つです。
保護者の皆さんへ:支援の土台は「親の健康」
最後に、保護者の皆さんにお伝えしたいことがあります。
こうした環境設定や支援を継続していく上で、「家族で支援方針を共有すること」がとても大事です。お父さんと言っていることが、お母さんと言っていることで違うと、お子さんは混乱してしまいます。
そして、そのために「ペアレント・トレーニング」のような講座に参加して知識を身につけたり、同じ悩みを持つ仲間を見つけることも助けになります。

ゆう先生の補足解説:ペアレント・トレーニングとは?
「ペアレント・トレーニング」とは、発達障害などの特性を持つお子さんの保護者の方が、子どもの行動を理解し、より良い関わり方を学ぶためのプログラムです。
肯定的な注目や具体的な指示の出し方などを学ぶだけでなく、同じ悩みを持つ親同士がつながり、孤立感を減らす「仲間づくりの場」としての側面も非常に大きいです。
そして何より、僕が口を酸っぱくして言いたいのは、「お父さんお母さん自身の心身の健康を大事にしてください」ということです。
発達障害の支援は、短距離走ではなく、本当に長い長い長距離走です。
保護者の方が頑張りすぎて、燃え尽きて(バーンアウトして)しまったら、お子さんにも必ず影響が出てしまいます。
イライラしたり、眠れなかったりしたら、それは休むサインです。趣味の時間や運動する時間、誰かと話す時間など、ご自身をリフレッシュさせる時間を大切にしてください。
まとめ
今日の記事では、「子どもを伸ばすための環境設定」について、物理的な側面と人的な側面から解説しました。
- 療育の基本は、本人を無理に変えようとせず、本人が力を発揮しやすい「環境」を整えることです。
- 物理的環境は「構造化」が鍵です。時間・空間・活動を「見える化」し、子どもが「見通し」を持てる安心な環境を作りましょう。
- 人的環境(関わり方)も重要です。「具体的・肯定的」な言葉を選び、「共感的」なマインドで接すること。そして「過程」を褒めることが自信を育みます。
- 子どもの「感覚特性(過敏・鈍麻・探求)」を理解し、それに応じた配慮をすることも、大切な環境設定の一つです。
これらすべてを一度にやるのは大変です。まずはできることから、一つずつ試してみてください。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

