ウチの子どっち? 愛着障害と発達障害の「似ている症状」と「決定的な違い」、支援のポイントを解説
こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「愛着障害(あいちちゃくしょうがい)と発達障害の違い」についてです。
「ウチの子、落ち着きがないのはADHD? それとも愛着の問題?」「人との関わりが苦手みたいだけど、ASDなの?」「症状が似ていて、どっちなのか分からない…」そんな風に悩んでいませんか?
この二つは、支援の現場でもしばしば混同されがちです。しかし、お子さんへの適切な支援を提供するためには、この二つを明確に区別し、深く理解することが極めて重要なんです。
なぜなら、似ているように見えても、根本的な原因が全く異なるからです。
根本的な原因の違い:後天的な「愛着障害」と先天的な「発達障害」
まず、この二つの決定的な違いは「原因」です。ここが全てのスタートになります。
愛着障害とは?
愛着障害は、「後天的」な問題です。
これは、乳幼児期に特定のお父さんお母さんといった養育者との間で、適切な「愛着(アタッチメント)」が形成されないことによって生じる、心理的な問題を指します。
例えば、養育者との死別や離別、あるいは虐待やネグレクト(育児放棄)といった不適切な養育環境が主な原因となり、生まれた「後」に起こる障害です。

ゆう先生の補足解説:愛着(アタッチメント)とは
前回の記事でも詳しくお話ししましたが、「愛着(アタッチメント)」とは、子どもが特定の養育者(お父さんお母さんなど)に対して形成する、特別な情緒的な結びつきのことです。
子どもは、不安や危険を感じた時に養育者に助けを求め、受け入れてもらうことで安心感を得ます。
この繰り返しが「自分は守られている」「他人は信頼できる」という心の土台(安全基地)を作ります。愛着障害は、この土台がうまく築けなかった状態を指します。
発達障害とは?
一方、発達障害は、「先天的」な問題です。
これは、生まれつきの脳機能の特性によるもので、「神経発達症(しんけいはったつしょう)」とも呼ばれます。
親の育て方や愛情不足が原因で起こるものでは、断じてありません。
主な種類としては、社会的なコミュニケーションや反復行動が特徴的な「自閉スペクトラム症(ASD)」や、不注意・多動性・衝動性が特徴の「注意欠如・多動症(ADHD)」などがあります。

ゆう先生の補足解説:神経発達症(しんけいはったつしょう)とは
神経発達症(Neurodevelopmental Disorders)とは、生まれつきの脳機能の発達の仕方が、多数派の人と異なることによって生じる障害の総称です。
脳の神経細胞のつながり方(シナプス)や、特定の回路(例:ADHDの報酬系)の働き方に特性があるとされています。
これは「病気」というより、その人の「特性」です。原因はまだ明確に解明されていませんが、多くの場合は遺伝的な要因が強く関連していると考えられています
なぜ混同されやすい? 似ている症状
原因は全く違うのに、なぜこの二つは混同されやすいのでしょうか。
それは、表面的な行動(症状)がとてもよく似ているからです。
例えば、以下のような行動は、どちらにも共通して見られることがあります。
- 落ち着きがない、じっとしていられない(多動性)
- 友達とトラブルになりやすい(対人関係の困難)
- すぐにカッとなる、癇癪を起しやすい(感情のコントロール)
愛着障害(特に不安型や葛藤型)のお子さんは、養育者の気を引くためや、不安が強いために、くっついたり離れたり、急に怒り出したりすることがあります。これが、ADHDの多動性や衝動性のように見えることがあるんです。
現場での感覚的な見分け方
僕が現場で多くの子どもたちを見ている中での「感覚値」ですが、見分けるための一つのポイントは、「信頼関係(ラポール)を築いた後の変化」かなと感じています。
もちろん1日や2日では分かりません。数ヶ月単位でじっくり関わっていく中で、
- 支援者との間に安心できる関係性ができた時(ラポールが形成された時)に、行動がスッとマイルドになる(落ち着いてくる)場合は、愛着障害の傾向が強いかもしれません。
- 信頼関係ができても、特性(例:衝動性、感覚過敏)自体があまり変わらない場合は、発達障害の傾向が強いかな、と感じます。
また、愛着障害のお子さんは、状態が良い時と悪い時の「極端な上下の波」がある印象ですが、発達障害のお子さんは「一定して、これが苦手」という特性が続くことが多い印象もありますね。
【重要】原因が違うと「支援」が変わる
なぜ、この二つを区別することがそれほど重要なのでしょうか。
それは、原因が違うため、アプローチ(支援の方法)を間違えると、かえってお子さんを苦しめてしまうからです。
- 愛着障害の場合:原因は後天的な関係性の問題なので、養育者(お父さんお母さん)の努力や関わり方次第で、かなり解決できる(修復できる)可能性が高いです。
- 発達障害の場合:原因は先天的な脳の特性なので、努力だけでどうこうなるわけではない部分が大きいです。特性を変えようとするより、環境を調整する方が重要です。
もし、発達障害のお子さんに対して「愛情が足りないからだ」と見当違いの関わりをしても特性は変わりませんし、逆に、愛着障害のお子さんに「特性だから」と環境調整だけしても、心の根本的な不安は解消されません。
だからこそ、正しい理解が不可欠なんです。
愛着障害へのアプローチ:「安全基地」の再構築
愛着障害は、後天的なものであり、修復可能です。
治療の核心は、お子さんにとっての「安全基地」を再構築することです。
「安全基地」とは、子どもが不安や危険を感じた時に、「ここに戻れば絶対に守ってもらえる」と確信できる場所や存在(主に養育者)のことです。
この絶対的な安心感があるからこそ、子どもは安心して外の世界を探索(挑戦)することができます。
愛着障害の支援とは、この「安全基地」としての機能を、お父さんお母さんとの間でもう一度しっかりと作り直していく作業なんです。
具体的には、「応答的な関わり」を積み重ねていくことが核となります。
「応答的な関わり」とは、子どもが発するシグナル(泣く、笑う、指をさす、話しかける等)に、養育者が「敏感に気づき」、そして「適切に応える」ことです。
例えば、
- 子どもが転んで泣いていたら、「痛かったね」と寄り添う。
- 嬉しそうにしていたら、「楽しいね」「嬉しいね」と一緒に喜ぶ。
このように、子どもの気持ちに寄り添い、その感情を言葉で代弁してあげる(感情学習)関わりを繰り返すことで、「自分の気持ちを分かってもらえた」という安心感が育ち、安全基地が再構築されていきます。
最初は、お子さんがわざと困らせるような「試し行動」をすることもあるかもしれません。
でも、そこでイライラせずにグッとこらえ、安心できる関わりを続けていくことがとても大事です。
発達障害へのアプローチ:「特性」との付き合い方
発達障害の支援は、「治す」という考え方ではありません。その子の「特性とどう付き合っていくか」を考える支援です。
- 早期支援(療育):その子の特性に合ったコミュニケーションの方法や、パニックにならないための工夫を学びます。
- 環境調整・合理的配慮:本人の特性を変えようとするのではなく、周りの環境を調整します(例:刺激を減らす、指示を視覚化する)。
- 薬物療法:ADHDの衝動性や多動性をコントロールするために、薬物療法を選択する場合もあります。(ただし、6歳以下の場合や、愛着の問題が併発していないかは慎重に検討すべきだと僕は思います)
- 心理療法・カウンセリング:二次障害(自己肯定感の低下など)を防ぐために行います。
最も複雑な「併発」というケース
最後に、最も支援が難しくなるのが、この二つが「併発」しているケースです。
生まれつき発達障害の特性(例:ASDで人の気持ちが分かりにくい、ADHDで落ち着きがない)があると、お父さんお母さんから見ても「育てにくさ」を感じることがあります。
その結果、お父さんお母さんもどう接していいか分からず疲弊してしまい、子ども側も「自分は怒られてばかりだ」「うまく伝わらない」と感じてしまう。
つまり、発達障害の特性が原因で、親子の愛情がうまく伝わらず、二次的に愛着障害も生み出してしまうことがあるんです。
こうなると、「生まれつきの生きづらさ」と「後天的な関係性の生きづらさ」をダブルで感じることになり、問題がより複雑化してしまいます。
だからこそ、もし「育てにくいな」と感じたら、お父さんお母さんが自分を責めるのではなく、早めに専門家と繋がり、その子の特性を正しく理解し、適切な関わり方を一緒に学んでいくことが本当に大切なんです。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- 愛着障害と発達障害は、症状は似ていますが、原因が「後天的(環境)」か「先天的(脳機能)」かという決定的な違いがあります。
- 表面的な行動(多動、対人関係の難しさ)が似ているため混同されやすいですが、見極めが重要です。
- 支援のアプローチは全く異なります。愛着障害は「安全基地の再構築(応答的な関わり)」、発達障害は「環境調整と特性の理解(療育)」が中心となります。
- 発達障害の特性が原因で、二次的に愛着障害を併発するケースもあり、正しい理解と支援が求められます。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
結局のところ、お子さん一人ひとり、個性も特性も、ご家庭の事情も全部違います。だからこそ、発達支援は「個別」に、その子に合ったものを提供していくことが大事なんですよね。
もし今日のお話を見て、「ウチの子は愛着の問題かも」と思ったら、まずは焦らず、愛情を持って「応答的な関わり」を増やしてみてください。
「発達障害かも」と思ったら、その特性を理解するために、まずは「環境調整」から始めてみてほしいなと思います。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

