知的障害のある子の将来の「働く」を考える。一般就労と福祉的就労(A型・B型・移行支援)の違いと選び方を徹底解説
はい、こんにちは。ゆうです。
僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。
このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。
さて、本日の記事は、「知的障害のあるお子さんの『就労支援』」についてです。
お子さんが将来、どんなふうに社会と関わっていくのか、どんな「働く」形があるのか、不安に思っていませんか?
「A型事業所」「B型事業所」って言葉は聞くけど、何が違うの? ウチの子は一般企業で働けるの?
そんな保護者の皆さんの疑問に、今日はしっかりお答えしていきたいと思います。
そもそも「知的障害」とは?
まず、「知的障害」について簡単におさらいします。知的障害は、おおむね18歳までの発達期に現れる知的機能の障害や、日常生活(身辺自立や適応力)に支障がある状態を指します。
一般的にIQ(知能指数)が70よりも低いことが一つの目安とされますが、それだけでなく「実生活でどれだけ自立できているか」という適応力も大きく影響します。
知的障害には、支援の必要度合いに応じて「軽度」「中等度」「重度」「最重度」という4つの区分があります。
特に「軽度知的障害」の場合、日常生活(トイレや着替えなど)は問題なくできているお子さんも多いため、一見すると障害に気づかれにくい、という側面があります。
お父さんお母さんから見ても「本当に知的障害なのかな?」と思われるケースも少なくありません。
しかし、その裏で、学習面(勉強についていけない)や人間関係で実はすごく困難を抱えていて、自己肯定感が下がってしまう…ということも多いんですよね。

ゆう先生の補足解説:知的障害の原因について
保護者の方から「知的障害の原因は何ですか?」と聞かれることもありますが、実は「原因不明」であることが多いのが現状です。
ダウン症のように、先天的な染色体の要因が分かっている場合もあります。
また、後天的な要因として、例えばインフルエンザが重症化して「インフルエンザ脳症」になり、その後遺症として知的障害を伴うケースもゼロではありません。
このように様々な要因が知られていますが、多くの場合、特定は難しいです。
この分野はまだまだ研究途中の分野であり、現代の医学でも解明されていないことが多い、というのが正直なところです。
学校での「就労支援」はどうなってるの?
お子さんが将来働くために、学校ではどんな準備をしていくのでしょうか。これは「特別支援学校」と「一般の学校」で少し様子が異なります。
特別支援学校の場合
一般の学校が「学業」をメインに進めるのに対し、特別支援学校は、その子なりの「生きる力」や「できること」を増やすための学びが中心になります。
特に高等部(高校生)になると、より「働く」ことをイメージしたカリキュラムが組まれます。
- 1年目(体験実習):まずは「働く」とはどういうことか、雰囲気や基本的なルールに慣れます。
- 2年目(経験実習):様々な職場を体験し、自分の得意・不得意を見極めていきます。
- 3年目(選定実習):2年間の経験をもとに、卒業後の進路先を絞り込んでいきます。
このように、高校3年間をフルに使って、段階的に就労への準備を進めていくのが特徴です。
一般の学校(通常学級や支援級)の場合
一般の小・中学校、高校に進学した場合、基本的には学業中心のカリキュラムになります。これは、お父さんお母さんが経験されてきた流れとほぼ同じですね。
そして、高校2年生の後半くらいから、進学するのか、就職するのか、進路選択を本格的に考えていくことになります。
卒業後のルートは、進学、一般就労、そしてこれから説明する福祉的就労サービスなど、本当に本人次第で様々です。

ゆう先生の補足解説:注目の新制度「就労選択支援」(2025年10月〜)
これまでは、進路を決めるときに、どうしても保護者の方や学校の先生の意向が強くなりがちでした。
しかし、2025年(令和7年)10月から「就労選択支援」という新しいサービスが始まります。これは、本人が「どこで、どんなふうに働きたいか」を自分で決められるよう(自己決定)、専門の支援員がアセスメント(評価)を通じてサポートする仕組みです。
これからは、より一層「本人の意思」が重視される流れになっていく、ということですね。
卒業後の「働く」4つの選択肢
知的障害のある方が学校を卒業した後、「働く」選択肢は大きく分けて4つあります。ここが今日一番大事なポイントです。
① 一般就労(一般枠・障害者雇用枠)
一つ目は、一般企業などに就職する「一般就労」です。
これには2つのパターンがあります。
- 一般枠:障害がない人と同じ条件で応募し、働くスタイルです。
- 障害者雇用枠:企業が障害のある方を雇用するために設けている特別な枠です。障害特性への配慮(例:指示を分かりやすくする、休憩を調整するなど)を受けながら働けるメリットがあります。
この「障害者雇用枠」で働くためには、原則として「障害者手帳(知的障害の場合は『療育手帳』)」が必要になります。
手帳を取るかどうかは、本当にご家庭の判断に委ねられる部分が大きいです。
メリット・デメリットを考え、悩まれる方も多いと思います。
ただ、手帳があることでこうした就労支援サービスや様々な福祉的サポートの選択肢が広がる、というのは事実として知っておくと良いかなと思います。
福祉的就労(移行・A型・B型)
一般就労が難しい場合や、自分のペースで働きたい場合に、「福祉的就労」という選択肢があります。
これは福祉サービスの一環として提供されるサポート付きの働き方で、主に以下の3つに分かれます。
② 就労移行支援(一般就労を目指す「訓練」の場)
これは、将来的に一般就労(障害者雇用枠など)を目指すための「訓練の場所」です。
- 目的:一般企業で働くためのスキル(ビジネスマナー、PC操作、面接練習など)を身につけること。
- 期間:最長2年間。
- 特徴:企業での実習や、就職後の「定着支援(長く働き続けるためのサポート)」も受けられます。お給料(賃金)は発生しませんが、一般就労へのステップアップをしっかりサポートしてくれる場所ですね。
③ 就労継続支援A型(「雇用契約あり」の働き方)
ここからが「継続支援」、つまり働き続けるための場所です。A型事業所は、一言でいうと「雇用契約を結んで働く」場所です。
- 目的:支援を受けながら、安定的に働くこと。
- 特徴:
- 事業所と「雇用契約」を結びます。
- そのため、法律で定められた「最低賃金以上」の給与が保証されます。
- 向いている人:一般就労はまだ難しいけれど、一定の体力があり、安定した収入を得たい方。
④ 就労継続支援B型(「雇用契約なし」の働き方)
B型事業所の最大の特徴は、「雇用契約を結ばない」ことです。
- 目的:体調や自分のペースに合わせて、無理なく働くこと。
- 特徴:
- 雇用契約を結びません。
- 給与ではなく、作業の成果に応じた「工賃(こうちん)」が支払われます。工賃は最低賃金を下回ることが多く、A型に比べると収入は低くなる傾向があります。
- 向いている人:長時間働くのが難しい方、まずは「働く練習」から始めたい方、体調の波が大きい方など。
A型・B型・移行支援、どう選ぶ?
一般就労、移行支援、A型、B型。どれを選ぶべきか悩みますよね。
まず、「就労移行支援」はあくまで一般就労を目指す「訓練校」のような位置づけです。
そして、A型とB型の最大の違いは、先ほどからお伝えしている「雇用契約の有無」です。
- 経済的な自立を重視し、ある程度安定して働ける体力があるなら「A型」
- まずは無理なく、自分の体調を最優先にしながら社会参加をしたいなら「B型」
というのが一つの目安になります。
ただ、僕が一番大事だと思うのは、「本人に合っているかどうか」です。
B型だから優しい、A型だから厳しい、というわけではありません。たとえB型で週2日・短時間の作業でも、本人が全く興味のない、苦痛な作業を2時間続けるのは辛いですよね。
逆に、A型でも本人の特性に合った、やりがいのある仕事なら楽しく続けられるかもしれません。
賃金面だけでなく、本人の体力、体調、そして何より「何をしたいか」という希望に合った事業所を、ぜひ一緒に探してあげてほしいなと思います。
どんな仕事が多い? 職場で求めたい配慮
知的障害のある方が実際にどんな分野で活躍されているかというと、多いのは製造業、小売業、福祉サービス業などです。
具体的には、
- 工場での検品、組み立て、梱包
- スーパーでの商品管理(品出し)
- 飲食店での調理補助、食器洗い
- ホテルや介護施設などでの清掃
- 事務(データ入力、郵便物の仕分け)
といった、作業手順が明確で、成果が分かりやすい業務が多い傾向がありますね。
もちろん、本人の特性によっては、繰り返し作業がすごく得意で「転職」になる場合もあれば、飽きてしまう場合もあります。本人の強みを活かせる分野を見つけることが大切です。
そして、もし就職が決まったら、職場の方に「合理的配慮」をお願いすることも考えてみてください。

ゆう先生の補足解説:合理的配慮(ごうりてきはいりょ)とは?
「合理的配慮」とは、障害のある人が障害のない人と同じように働いたり学んだりできるように、職場や学校が「必要かつ負担になりすぎない範囲での配慮」を行うことです。
これは法律(障害者差別解消法など)で定められた義務でもあります。
例えば、保護者の方から職場へ、「本人は曖昧な指示が苦手なので、『あれ』『それ』ではなく具体的に指示してほしい」
「口頭だけでなく、イラストや色分けを使ったマニュアル(視覚支援)を作ってくれると嬉しい」といったことを伝える。これも立派な合理的配慮の要求です。
長く働き続けるためには、こうした日々の丁寧なコミュニケーションと、本人が働きやすい環境づくりが欠かせないんですよね。
まとめ
今日の話を振り返ります。
- 知的障害には軽度から最重度まであり、特に軽度の場合は「見えにくい困難さ」に気づいてあげることが大切です。
- 働く選択肢として「一般就労」と「福祉的就労」があり、福祉的就労には「就労移行支援(訓練)」「就労継続支援A型(雇用契約あり)」「就労継続支援B型(雇用契約なし)」の3つがメインです。
- A型は最低賃金が保証され、B型は体調に合わせて柔軟に働ける(ただし工賃は低い)という違いがあります。
- 収入面だけでなく、本人の体力、体調、そして「やりたいこと」に合った場所を、学校や支援機関と一緒によく話し合って選ぶことが何より重要です。
結論:読者へのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
お子さんの「将来」や「働く」ことを考えると、不安になることも多いと思います。でも、選択肢は一つではありません。まずはご本人が「できること」に目を向けて、それをどう活かせるかを一緒に考えていってほしいなと思います。
今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

