【02】知的障害/境界知能

知的障害の重症度(軽度〜最重度)を徹底解説!IQだけじゃない「適応行動」の重要性とは?|富山の現役指導員

yuu

こんにちは。ゆうです。

僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。

このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。

さて、本日の記事は、「知的障害の重症度別理解」についてです。

「知的障害って、程度によって何が違うの?」「IQの数字だけで判断されるの?」そんな疑問や不安を感じていませんか?

今日は、軽度から最重度までの違いや、診断で重視されるポイントについて詳しく解説していきますね。

知的障害の診断基準:IQだけじゃない大切な視点

まず、知的障害がどのように診断されるか、その基準についておさらいしましょう。知的障害の診断には、以下の3つの要素がすべて満たされる必要があります。

  1. 知的機能の制約:IQ(知能指数)がおおむね70〜75以下であることが目安とされます。
  2. 適応機能(適応行動)の制約:日常生活や社会生活を送る上で、年齢相応の困難さがあること。
  3. 発症時期:これらの困難さが、発達期(18歳未満)に生じていること。

ゆう先生の補足解説:IQ(知能指数)とは?

IQ(Intelligence Quotient)は、知能検査によって測定される、同年齢集団の中での知的発達の水準を示す数値です。平均は100とされています。

  • 軽度:IQ 50〜70程度
  • 中度(中等度):IQ 35〜50程度
  • 重度:IQ 20〜35程度
  • 最重度:IQ 20未満

これらはあくまで目安であり、特に重度・最重度の場合、検査自体が難しいこともあります。

世界的な流れ:「適応行動」の重視

ここで強調したいのは、近年の世界的な傾向として、IQの数値だけでなく「適応行動(適応機能)」、つまり「生きる力」「生活力」が非常に重視されているということです。

知識として知っていても、実際の生活場面で使えなければ意味がないですよね。

「ありがとう」と言葉は知っていても使えない、「時間」はなんとなく分かっても時計が読めない、など、実際の生活でどれだけ自立して責任ある行動がとれるかが問われます。

この適応行動は、IQテストだけでは測れない、その子の生活全体を見る上で非常に大切な指標なんです。

ゆう先生の補足解説:適応行動(適応機能)とは?

その人が年齢や文化、地域社会の中で、自立した責任ある生活を送るために必要な様々なスキルの総称です。「生きる力」とも言えますね。

大きく分けて、以下の3つの領域で評価されます。

  1. 概念的スキル:言葉の理解、読み書き、計算、時間やお金の管理、記憶、問題解決など。
  2. 社会的スキル:挨拶、順番を守る、友達作り、共感、状況判断、ルール理解など。
  3. 実用的スキル:食事、着替え、トイレ、入浴などの身辺自立、家事、健康管理、安全確保、公共交通機関の利用など。

これらのスキルが、年齢相応にどの程度身についているかを評価します。

IQ(知的機能)と、この適応行動(適応機能)を総合的に見て、最終的に「軽度」「中度」「重度」「最重度」という重症度の区分が決まってくる、という流れになります。

【重症度別】知的障害の特性と支援のポイント

では、それぞれの重症度別に、具体的な特性や支援のポイントを見ていきましょう。

1. 軽度知的障害

  • IQ目安:50〜70(75)程度
  • 精神年齢目安:概ね小中学校レベル
  • 特徴
    • 幼児期には発達の遅れが目立たないことも多いです。
    • 小学校に入ってから、学習面(特に抽象的な思考、時間・金銭管理)での困難さが明らかになることがあります。
    • 対人関係で、意図せず誤解されたり、相手の気持ちを読むのが苦手だったりすることがあります。
    • 身の回りのこと(食事、着替え、トイレなど)は、ある程度自分でできることが多いです。
    • 支援があれば、自立した生活や、比較的単純な仕事に就くことも可能です。
  • 見えにくい困難さ
    • 一見「普通」に見えるため、困難さが理解されにくく、「努力不足」「性格の問題」と誤解されがちです。
    • 本人も周りとの違いに気づき、自己肯定感が低くなったり、二次障害(うつなど)につながったりするリスクがあります。
  • 支援の原則
    • できないことを無理にさせるのではなく、本人の「できること」「得意なこと」を最大限に活かす(ストレングスベースドアプローチ)視点が非常に重要です。
    • 苦手な部分は、環境設定(視覚支援、ルールの明確化など)や周りのサポートで補っていきます。

2. 中度(中等度)知的障害

  • IQ目安:35〜50程度
  • 精神年齢目安:概ね6歳〜9歳未満程度
  • 特徴
    • 学習能力の発達は、生涯を通じて小学校低学年レベルにとどまることが多いです。抽象的な概念(時間、お金など)の理解は特に難しい傾向があります。
    • コミュニケーションは、単純な言葉や短い文章でのやり取りが中心になります。非言語的なコミュニケーション(ジェスチャーや表情)の方が伝わりやすいこともあります。
    • 身辺自立(食事、着替え、トイレなど)は、時間をかけた指導や継続的な支援、促しが必要です。家事などを自立して行うことは難しいです。
    • 慣れた環境であれば、簡単な作業(B型作業所など)ができる場合もあります。
  • 支援の原則
    • 日常生活の多くの場面でサポートが必要です。全てを自立させようとするのではなく、部分的に「依存」を許容することも大切になります。
    • ただし、本人ができること(着替えの一部、挨拶など)は粘り強く促し、少しずつ「自分でできる」範囲を広げていく自立支援の視点も重要です。
    • 言葉での理解が難しいため、本人の行動の背景にある「気持ち」や「要求」を周りの大人が読み取り、代弁してあげる関わりが求められます。日々の行動を記録し、パターンを分析することも有効です。

3. 重度知的障害

  • IQ目安:20〜35程度
  • 精神年齢目安:概ね3歳〜6歳未満程度
  • 特徴
    • 日常生活のほぼ全ての側面において、広範囲な支援(常時の介助や見守り)が必要です。
    • 概念的な理解(数、文字、時間など)は非常に困難です。
    • コミュニケーションは、言葉ではない方法(指差し、身振り、表情、簡単な単語など)が中心になります。
    • 身辺自立(食事、入浴、排泄など)は、全面的な介助が必要です。
    • 初めての場所や予期せぬ変化でパニックになりやすい傾向があります。
    • 医療的ケアが必要な場合や、強度行動障害を伴う割合が高くなってきます。
    • 運動機能の発達に遅れを伴うこともあります(歩行が難しいなど)。

ゆう先生の補足解説:医療的ケア児とは?

心臓、呼吸器、消化器などに慢性的な疾患があり、生きていくために人工呼吸器や胃ろう、気管切開、喀痰吸引などの医療的なケアが日常的に必要な児童のことを指します。重度の知的障害と併存することがあります。

ゆう先生の補足解説:強度行動障害(きょうどこうどうしょうがい)とは?

自分の体を叩いたり傷つけたりする「自傷行為」や、他人を叩いたり噛んだりする「他害行為」、物を壊すなどの行動が、著しく高い頻度で起こるため、日常生活に深刻な影響が出ている状態を指します。

これは本人の「わがまま」ではなく、自分の気持ちや要求をうまく伝えられないことへのフラストレーションや、強い不安、感覚的な不快さなどが背景にあることが多いと考えられています。専門的な知識に基づいた対応が必要です。

  • 支援の原則
    • 生命維持、健康管理、安全確保が最優先となります。
    • 社会参加を目指すというよりは、本人が安心できる環境の中で、穏やかに、その人らしく幸せに生活できることを目指します。
    • 支援者は、本人のわずかな反応や表情の変化に気づき、本人の楽しみや心地よさを一緒に見つけていく姿勢が大切になります。

4. 最重度知的障害

  • IQ目安:20未満(測定不能な場合も)
  • 精神年齢目安:概ね3歳未満程度
  • 特徴
    • 日常生活の全ての側面において、他者に完全に依存した状態です。
    • 概念的な理解(言葉、数など)はほぼ不可能です。
    • コミュニケーションは、非言語的な方法(表情、視線、声など)が中心です。
    • 身辺自立は全介助が必要です。
    • 重度の知的障害と同様に、医療的ケアが必要なケースや、強度行動障害が見られるケースが多いです。
    • 感覚的な刺激への反応が乏しい(鈍麻)こともあります。
  • 支援の原則
    • 重度知的障害と同様に、生命維持、健康管理、安全確保が中心となります。
    • 本人が示すわずかな反応(快・不快など)を丁寧に読み取り、できる限り快適に過ごせるようなケアを提供することが重要です。
    • ご家族だけで抱え込むことはせず、医療・福祉の専門チームと緊密に連携していくことが不可欠です。

まとめ

今日の記事では、知的障害の重症度について、軽度から最重度までの4段階に分けて解説しました。

  • 知的障害の診断基準は「①知的機能(IQ)」「②適応機能(生活力)」「③発症時期」の3つであり、近年は特に「適応機能」が重視されています。
  • 軽度では、一見分かりにくい困難さを抱えつつも、支援があれば自立した生活が可能です。強みを活かす支援が重要です。
  • 中度では、日常生活の多くの場面で支援が必要となり、部分的な依存を許容しつつ、できることを増やす視点が大切です。
  • 重度・最重度では、生命維持や健康・安全管理が最優先となり、医療的ケアや強度行動障害への対応も含め、本人が穏やかに過ごせるための個別化された支援が求められます。

重症度によって必要な支援は大きく異なりますが、どの段階であっても、その人らしく安心して生活できることを目指す、という点は共通していると僕は思います。

結論:読者へのメッセージ

僕自身、今日まとめる中で、特に重度・最重度のお子さんへの支援について、もっとできることがあったのではないか、もっと良い方法はなかったかと、改めて考えさせられました。

科学技術の進歩で、彼らがもっと楽に、もっと豊かに生きられる社会になってほしいと願うと同時に、今できることは、やはり一人ひとりに合わせた支援を、できることから丁寧に行っていくことだと感じています。

知的障害という診断を受けても、その子たちが気持ちよく、楽しく生活できるように、周りが配慮していくこと。

そして、お父さんお母さん自身も、無理せず、心を穏やかに保てるようにしていくこと。それが一番大切なのではないでしょうか。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

ABOUT ME
ゆう|Yuu
ゆう|Yuu
子どもの発達の専門家
現役児童指導員。一般社団法人dil理事。年間300回以上、通算2000回以上の療育。児童発達の専門家。富山県内の療育施設で主に児童・幼児の療育を行っています。ニコニコ学習塾も絶賛活動中。
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