学習障害(SLD)とは?努力不足ではない「読み書き計算」の困難さと家庭でできる支援法

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はい、こんにちは。ゆうです。

僕は、富山県富山市で児童発達支援施設の指導員として活動している、現役の職員です。

このブログ(YouTube)では、発達障害や子育てに関する現場のリアルな情報や、保護者の方の気持ちが少しでも軽くなるような考え方を発信しています。

さて、本日の記事は、「学習障害(限局性学習症)」についてです。

「学習障害」から「限局性学習症(SLD)」へ

さて今日に関しては学習障害の話なんですけれども、実は昨今、学習障害のことは「限局性学習症(げんきょくせいがくしゅうしょう)」という風に、ちょっと名称が変わったんですよね。

まあどっちも使えるんですけど、正しくは「限局性学習症」という名前に変わっております。

ただ、昔ながらの言い方の「学習障害(LD)」って言われている方が分かりやすい方も多いのかなと思いますので、この記事ではSLD(限局性学習症)やLD(学習障害)という言葉が両方出てくるかもしれませんが、ご了承ください。

ゆう先生の補足解説:限局性学習症(SLD)とは?

SLD(Specific Learning Disorder)は、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」で採用された正式名称です。

動画でお話ししている通り、「知的発達に遅れがない」にもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習技能の習得に著しい困難がある状態を指します。

「限局性」という言葉には、「困難さが学習全般ではなく、特定の分野に限られている」という意味が込められています。

学習障害(SLD)と知的障害の難しい見分け方

SLDの定義で一番大事なのは、「知的発達に遅れがない」のに学習に偏りがある状態を指す、ということです。つまり、IQ的には問題ないんだけれども、特定の分野だけになぜか困難が現れる状態のことですね。

ただ、これ本当に難しいのが、知的障害と学習障害の見分け方って、結構個人差もあって難しいなと思っています。正直、ただ「勉強ができない」という風に見たら、本当は見分けがつかないなと思います。

僕もこの仕事が長くなってきたので、なんとなく「あ、これはこっちかな」っていう感触は分かるようにはなってきたんですけど、一般のお父さんお母さんが見た時には、自分の子がどっちなのか正直分からないことの方が多いのかなと思います。

一般的に、知的障害は「IQ 70以下」を目安とし、学習面だけでなく、日常生活(例えば、身の回りのことやコミュニケーション)も含めた全般的な発達に遅れが見られる状態を指します。

一方で学習障害(SLD)は、知能は平均(もしくはそれ以上)であることが多く、特定の分野(例:国語の教科書は読めないけど、人から言われたことはよく理解できる)に困難が限局しているのが特徴です。

ただ、動画でも触れているように、読む・書く・計算すべてが苦手なSLDのパターンもあるので、気になる場合は専門家に相談することが大切です。

診断の目安は「6ヶ月以上」

学習障害の診断基準の一つとして、「読むことが苦手」「書くことが苦手」「計算が苦手」といった状態で、何かしらの努力を続けているにもかかわらず、その困難が解決せずに6ヶ月以上持続する、というのが目安になっています。

もちろん、視力が悪いとか、聴覚に課題があるとか、教育環境に不備があるといった、他の要因がないことが前提です。

ゆう先生の補足解説:なぜ「6ヶ月」の期間が必要なの?

この「6ヶ月」という期間は、一時的な学習の遅れと区別するための基準です。

人間は発達の差が必ずあります。例えば4月生まれの子と3月生まれの子では、1年分の成長の差がありますよね。

特に脳は、それぞれの部位によって発達するスピードが違いますし、発達障害の子どもはゆっくり成長することも多いと言われています。

今はできなくても、4ヶ月後には急にできるようになる、なんてことも往々にしてあります。

その瞬間の「できない」だけを見て「学習障害だ」と決めつけてしまうのは正しくないので、一定期間の持続性が目安とされるわけです。

特性は基本的には生まれつきのもので、生涯にわたって続くものだとされています。ただ、これも難しいところで、特性自体は変わらなくても、努力だったり、環境だったり、もちろん「成長」だったりで、結構変わる部分もあります。

例えば、2年生の間は掛け算が全くできなかったんだけど、4年生くらいになるとサクサクできるようになった、なんてことは僕が運営している学習支援(塾)でもよくあります。

学習障害(SLD)の3つの分類

学習障害は、大きく分けると3つに分類されます。

① 読むのが苦手:ディスレクシア(独自障害)

これは、文字を読む速さと正確性に困難さがある状態です。「独自障害(どくじしょうがい)」とも言いますね。

文字を1つずつ拾う「逐字読み」や、形の似た文字(例:「め」と「ぬ」)を読み間違える、「行を飛ばす」などが特徴としてあります。

ゆう先生の補足解説:逐字(ちくじ)読みとは?

動画でも「たどたどしく読む」と説明しましたが、例えば「わたしはきのう」という文章を読むときに、「わ・た・し・は・き・の・う」というように、一文字ずつ音にして拾って読むような読み方です。

そのため、読むのに時間がかかったり、単語や文章として意味を捉えるのが難しくなったりします。

音読はできるんだけれども、読んだ内容が理解できていない、ということもあります。本人はすごく頑張って努力をしているのに成果につながらなくて、疲れや「読書嫌い」につながってしまうのが大きな課題かなと思います。

② 書くのが苦手:ディスグラフィア(書字表出障害)

これは、字の形や、文字、文章の構成に困難がある状態です。「書字表出障害(しょじひょうしゅつしょうがい)」と言われます。

例えば、文字の大きさが不揃いになったり、小さい「ゃ」や「っ」(拗音・促音)が書けなかったり、「鏡文字」(例:「さ」を左右反転して書く)が続いたり、といった特徴があります。

ゆう先生の補足解説:「鏡文字」は心配しすぎないで

動画でも触れましたが、特に未就学児や小学校低学年の子がひらがなを覚える過程で鏡文字を書くことは、非常によくあることです。

これは、まだ文字の形や向きを正確に認識する力が発達途中だからです。

「いつまで経っても治らない」「他の書きにくさも目立つ」という場合には注意が必要かもしれませんが、幼児期に見られる鏡文字については、あまり心配しすぎない方が良いかなと思います。

他にも、「てにをは」など助詞の誤りが多かったり、黒板を写す(板書)のが極端に遅かったり、作文が短く筋道が立っていなかったりすることも見られます。

特に日本は、ひらがな、カタカナ、漢字、最近では英語(アルファベット)と、覚えなければいけない文字の種類がめちゃくちゃ多いんですよね。

習得難易度が高いので、この書字障害の子にとっては本当に辛い状態になりやすい環境とも言えます。

③ 計算・数が苦手:ディスカリキュリア(算数障害)

これは、数の概念や計算の理解に困難がある障害です。「算数障害」とも言います。

「位取り」(一の位、十の位など)の理解が難しかったり、九九は暗記できても応用ができなかったり、時計の細かいメモリが読めなかったり、桁数が増えると計算ができなかったりします。

これは、数を直感的に理解できる「ナンバーセンス」というものが弱いところも関係していると言われています。

ナンバーセンスとは、その名の通り「数に対する感覚」のことです。例えば、「5」という数字を見たときに、それが「3」より多くて「10」より少ないとか、おはじきが5個ある状態とか、指を5本立てた状態とかを、感覚的・直感的に理解できる力を指します。

このナンバーセンスが弱いと、数を概念として捉えるのが難しく、計算の習得に時間がかかると言われています。

算数がただ嫌いな場合は、練習やスモールステップでできるようになるんですが、この算数障害(ディスカリキュリア)の場合は、覚えるまでにものすごく時間がかかります。

なので、先ほどの2つ(読む・書く)と比べても、この算数障害の場合は、もし「できない」場合には早めに支援方法を検討していった方がいいのが、この算数障害かな、という感じはします。

気づきのサインと家庭での支援

では、もし「うちの子、そうかも?」と思ったら、どうすればいいでしょうか。

注目するポイントは、「繰り返し繰り返し現れる部分」です。1回の失敗じゃなくて、同じ読み間違い、計算のつまずき、板書の遅さなど、パターンとして毎回繰り返される困難がある場合は、重要なサインかなと思います。

もし違和感があったら、家庭での様子を客観的に記録しておくことはすごく大事です。

日付、状況、困難の内容、その時のお子さんの反応などを観察日誌のように残しておくと、専門機関に相談する際に役立ちます。

ゆう先生の補足解説:記録が「合理的配慮」につながる

家庭での具体的な記録は、医師の診断の助けになるだけでなく、学校の先生に「合理的配慮」をお願いするための大切な資料になります。

合理的配慮とは、その子の困難さに合わせて、学習や生活の方法を調整してもらうことです。

例えば、「板書が苦手なので、タブレットで黒板の写真を撮らせてください」とか、「読むのが苦手なので、テストの問題文を読み上げてください」といったことです。

客観的な記録があることで、学校側も「こういう状況なら、この配慮が必要だね」と理解しやすくなります。

家庭でできる具体的な支援ステップ

もしお子さんが学習障害の診断を受けたり、そういう傾向があるなと感じたりした場合に、ご家庭でできる支援についてお話ししていきます。

ステップ1:何よりも大切な「自己肯定感」を守る

これが正直、もう本当に根幹です。一番大事なのは、「できない経験」の繰り返しを極力防ぐことです。

学習障害の場合、他のことはできてしまうことが多いので、勉強の一部分だけができないと、本人が自分を責めてしまうんですよね。

「なんで僕はできないんだろう」「頑張っても無駄なんじゃん」みたいに、自己否定気味になることが多いです。

そうなると、勉強を「継続」できなくなってしまいます。勉強は、障害があろうがなかろうが、自分が「できるレベル」のものを、ちょっとずつレベルを上げながら「継続」することが何よりも大事です。

自己肯定感が潰れて「僕には無理だ」と思った瞬間に、この継続が止まってしまいます。

ですから、勉強に関しても、結果を褒めるんじゃなくて、極力、努力とか小さな家庭での達成。「今日も勉強したね」「昨日も勉強したね」というように、過程を褒めていく

まずは、本人の「強み」や「得意なこと」を見つけて、そこを積極的にやらせてあげるのもいいですね。

例えば、理科の実験は好きだけどまとめるのは苦手、という場合は、まず実験をしっかりやって「今日も理科やったね!」と褒めてあげる。

そして、間違いを責めすぎないこと。「なんでできないの!」ってなる気持ちは分かるんですが、それは極力やめて、「うーん、なんでだろうね? 一緒に考えてみようか」という姿勢が、子どもたちの挑戦する意欲を育みます。

ステップ2:「多感覚」を使った学習支援

学習障害の支援では、「多感覚」、つまり視覚・聴覚・触覚などを組み合わせると良いと言われています。

例えば、

  • (聴覚+視覚) 読むのが苦手なら、教科書の読み上げソフトやアプリ(音声教材)を使って、耳で聴きながら、文字を目で指で追う
  • (触覚+視覚) 幼児期に文字を覚えるなら、鉛筆で書く前に、砂や粘土で文字の形を作ったり、空中に指で書いたりする。
  • (触覚+視覚) 計算が苦手なら、おはじきやブロックなど、具体的なもの(具体物)を使って「3個と2個を合わせると…」と数える。

勉強するときに、目(視覚)だけ、耳(聴覚)だけ、といった単一の感覚を使うよりも、目と耳と手(触覚)を同時に使う方が、脳のいろんな部位(V)を同時に使うことになります。

脳のたくさんの部位を刺激することは、そのまま脳の発達につながることが多いので、多感覚を使うことによって、学習障害による困難さが少し緩和する可能性がある、と考えられています。

ステップ3:集中しやすい「環境」を整える

これは僕の施設でも徹底してやっているんですが、学習しやすい環境を整えることはめちゃめちゃ大事です。

シンプルに、遊ぶ部屋と勉強する部屋は極力分けた方がいいですし、無理ならパーテーションや棚で区切る。勉強するときに、机の上には(今やっている課題以外の)ものは何もない状態にする。

このように、場所や物の整理をすることで、脳も「勉強モード」に切り替えやすくなります。

また、時間も大事です。長時間ダラダラやるんじゃなくて、「15分勉強して、5分休憩」とか「20分集中したら、今日はおしまい」というように、短時間集中のサイクルを作る方が効果的です。

ステップ4:【症状別】具体的な支援アイディア

  • 読み(ディスレクシア)の支援
    • 音声教材や読み上げアプリを活用する。
    • 読むときに、指や定規(リーディングトラッカー)を当てて、行を飛ばさないようにする。
    • 文章の「文節ごと」にスラッシュ(/)を入れて区切りながら読む。
  • 書き(ディスグラフィア)の支援
    • 筆記用具を工夫する。僕の塾で最高におすすめできるのは「三角鉛筆」や「三角シャーペン」です。正しく持ちやすくなるだけで、字形が劇的に改善する子は多いです。
    • マス目の大きいノートや、補助線(点線)付きのノートを使う。
    • 漢字は、「パーツごと」に分解して覚える。(例:「聞」なら「門」と「耳」)
  • 計算(ディスカリキュリア)の支援
    • ブロックやおはじきなどの「具体物」を徹底して使う。
    • 位取り(桁)が分からなくならないよう、「一の位は赤」「十の位は青」のように色分けする。
    • 計算の手順書(マニュアル)を作って、それを見ながら解く。
    • 必要に応じて、電卓やそろばんを使うことも大事です。

すべての支援の土台:「スモールステップ」と「褒め方」

そして、これら全ての支援の土台になるのが「スモールステップ設計」です。

できないことをたくさんやらせるのではなく、本人が「ちゃんと理解できる」「これならできる」という分量やレベルまで課題を落とし込むことです。

例えば、「漢字ドリルを1ページやる」のが難しいなら、「まずこの漢字1文字だけ、3回なぞる」から始める。これがスモールステップです。

「やればできる」という感覚を身につけるためには、この小さな成功体験の積み重ねが不可欠です。

このスモールステップを毎日ちょっとずつでもいいので「継続」させること。そして、その「継続」を褒めてあげることです。

僕が最後にお伝えしたいのは、この「褒め方」です。

学習障害の子どもたちは、誰よりも頑張っていることが多いです。だからこそ、結果よりも「努力」や「過程」を認めてあげてほしいんです。

もちろん、100点を取ったら「すごい!100点取ったね!」と一緒に喜んであげてください。

でも、それと同じくらいの熱量で、「最後まで諦めずに考えたね!」とか「ここまでできた!よっしゃ!」と、努力の過程を一緒に喜んであげる。

こういう関わり方が、子どもたちが長く挑戦を続けるエネルギーになりますし、本質的な自信を育んでいくと僕は信じています。

まとめ

今日の記事をまとめます。

  • 学習障害(SLD)は、知的発達に遅れがないものの、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習分野に困難が生じる状態です。努力不足が原因ではありません。
  • SLDは主に、読む困難さ(ディスレクシア)、書く困難さ(ディスグラフィア)、計算や数の概念の困難さ(ディスカリキュリア)の3つに分類されます。
  • 家庭での支援で最も重要なのは、本人の自己肯定感を守ることです。スモールステップで課題を設定し、結果だけでなく「今日も勉強したね」といった努力や継続のプロセスを具体的に褒めてあげることが、本人の自信につながります。

結論:読者へのメッセージ

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今日の話が、この記事を読んでくださった保護者の方や当事者の方にとって、何かしらの「行動のきっかけ」になったり、見てくださった方の「気持ちが少しでも軽くなる」ことに繋がれば、僕もとても嬉しいです。

ABOUT ME
ゆう|Yuu
ゆう|Yuu
子どもの発達の専門家
現役児童指導員。一般社団法人dil理事。年間300回以上、通算2000回以上の療育。児童発達の専門家。富山県内の療育施設で主に児童・幼児の療育を行っています。ニコニコ学習塾も絶賛活動中。
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